おとし穴 (映画)

映画『おとし穴』解説

『おとし穴』は、安部公房が原作・脚本、勅使河原宏が監督を務めた1962年公開の日本映画です。ATG（日本アート・シアター・ギルド）が配給した初の邦画作品であり、勅使河原プロダクションの第1回作品としても知られています。本作は、1960年に九州朝日放送で放映されたテレビドラマ『煉獄』を映画化したもので、昭和37年度のキネマ旬報ベストテンで第7位にランクインするなど、高い評価を得ました。

制作背景

撮影は1961年7月から9月にかけて、福岡県嘉穂郡庄内（現在の福岡県嘉麻市）の三菱鯰田鉱業所を主な舞台として、オールロケーションで行われました。メインキャスト以外は地元住民が参加し、少年役には実際に坑内夫の息子が起用されました。また、安部公房自身もエキストラとして出演しています。脚本テキストは、雑誌『キネマ旬報』や『アートシアター』に掲載されましたが、初期のシナリオは『シナリオ』に「菓子と子供」というタイトルで掲載されました。映画タイトル候補には「明日を探せ」「夜が来る」など、安部公房のメモが残されています。

あらすじ

物語は、炭鉱夫AとBが、Aの息子を連れて炭鉱から逃げ出す場面から始まります。彼らは百姓を騙して食いつなぎ、労働下宿にたどり着きます。そこでAは、謎の男Xに隠し撮りされた写真と引き換えに、新たな仕事を紹介されます。Aは息子と共に指定された場所へ向かう途中、男Xに殺害されてしまいます。事件を目撃した駄菓子屋の女は、男Xから口止め料を受け取り、警察に虚偽の証言をします。Aの幽霊が現れ、事件の真相を探るうちに、新聞記者がAを炭鉱委員長と勘違いしていることがわかります。また、駄菓子屋の女も男Xに殺害され、事件は複雑化していきます。最終的に、Aの息子は、父に似た炭鉱委員長の死体を見て、何かを悟ったように走り去るという、衝撃的な結末を迎えます。

スタッフ・キャスト

監督：勅使河原宏
脚本：安部公房
撮影：瀬川浩
音楽：一柳慧、高橋悠治
美術：山崎正夫
主演：井川比佐志
その他出演者：田中邦衛、佐々木すみ江、佐藤慶、観世栄夫

地元住民やKBC放送劇団のメンバーも多数出演しています。

作品の評価と影響

『おとし穴』は、その実験的な映像表現や、社会の不条理を描いたテーマ性で、公開当時から高い評価を受けました。また、映画の舞台となった炭鉱のリアルな描写や、地元住民を積極的に起用した点も、作品のリアリティを際立たせています。受賞歴としては、シナリオ作家協会賞、NHK新人監督賞、日本映画記者会賞などがあります。映像ソフトは、ビデオテープやDVDで発売されています。

本作は、安部公房の文学的な世界観と、勅使河原宏の映像美が融合した、日本映画史に残る傑作として、今もなお多くの人々を魅了し続けています。

関連情報

関連する出来事：三井三池争議
* 参考文献：安部公房全集、キネマ旬報ベスト・テン全史

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