お猿畠の大切岸

お猿畠の大切岸

お猿畠の大切岸（おさるばたけのおおきりぎし）は、神奈川県鎌倉市と逗子市の境を形成する丘陵の斜面に、約800メートルにわたって造られた人工的な断崖地形です。この場所は国の史跡である名越切通の一部とされており、かつての鎌倉幕府時代の防衛施設としての役割や、石の採掘場としての重要性が明らかになっています。

地理的特徴

お猿畠は、標高80から90メートルの丘陵地帯に位置しており、東側の斜面には比高5から10メートルの断崖が形成されています。この断崖は、名越切通やまんだら堂やぐら群の北東にあたる場所に位置し、歴史的にも重要な地点となっています。伝説によると、日蓮宗の開祖である日蓮がこの地で白い3匹の猿に導かれて助かったというエピソードがあり、そのことから「お猿畠」という名前がつけられています。この地域には、日蓮が身を隠した岩窟があったとも言われ、法性寺が建立されています。

中世の防衛機構

鎌倉が成長していく中、源頼朝によって設立された鎌倉幕府は、地理的に防御に適した場所に位置していました。周囲を丘陵に囲まれたこの地形は、外敵からの侵入を防ぐための天連の要害とされています。赤星直忠氏は、当時の文献に基づき、鎌倉城が外敵の進入を防ぐために重要視されていたことを指摘しています。このような観点から、お猿畠の大切岸もその一環であると考察されています。また、文献にみられるように、源頼朝が鎌倉に本拠地を移す際にその地理的条件が大きな役割を果たしていた可能性があります。

発掘調査と新たな発見

しかし、2002年に実施された発掘調査では、この断崖が石切場であったことが判明しました。研究者たちは、岩盤が板状に切り出されていた痕跡を発見し、14世紀から15世紀の間に行われた大規模な石切り作業の一部であったことが明らかとなりました。この期間、鎌倉では「鎌倉石」と呼ばれる石材が採掘され、都市部のインフラ資材として利用されていたことが研究によって示されています。

歴史的考察

鎌倉はその地理的および軍事的な意義から、古代から重要な交通路として栄えてきました。頼朝が鎌倉を選んだ背景には、軍事的な要因だけではなく、古代遺跡や交通の要衝としての役割も考慮された可能性があります。従来の防衛施設としての解釈に対して新たな視点が必要とされており、お猿畠の大切岸はその象徴的な存在として再評価されています。

現代の認識

現在では、鎌倉市と逗子市の両市がこの遺構について異なる評価を持っています。鎌倉市は防御施設としての機能を重視しており、逗子市は石切場であることを確認した上で、再考を促しています。このように、お猿畠の大切岸は、歴史的な意義を持ちつつ、双方の市の文化財として取り扱われ、今なお多くの人々に影響を与えています。

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