切岸

切岸（きりぎし）とは

切岸とは、斜面を人工的に削り、急峻な崖状にした防御施設です。主に、敵が斜面を登って侵入するのを防ぐ目的で、城、特に山城で多用されました。日本では、鎌倉時代から戦国時代にかけて多く見られる構造です。

切岸の構造

切岸は、斜面を削ることで形成されます。削った土は、多くの場合、斜面下に捨てられますが、上の曲輪（くるわ：城郭内の区画）に上げられることもあります。切岸を、上部の曲輪から一定の高さになるように削ると、必然的に腰曲輪（こしぐるわ：斜面の中腹にある平坦な場所）ができます。この腰曲輪は、削った土を利用して拡幅されることもあります。

切岸の歴史と事例

神奈川県鎌倉市周辺の丘陵斜面には、「お猿畠の大切岸」と呼ばれる大規模な断崖が見られます。これは、かつて北条氏が三浦氏の侵入に備えて、鎌倉防衛のために築いたものだと考えられていました。その根拠として、『玉葉』に見られる「鎌倉城」の記述や、『吾妻鏡』に見られる鎌倉を「要害」とする記述が挙げられ、中世の鎌倉全体が城郭として捉えられていたという考えがありました。

しかし、この切岸説には批判的な見解もあり、2002年に行われた逗子市の発掘調査では、14世紀から15世紀にかけて、建物の基礎や道路などに使われた石材の採石場であったことが確認されました。この発見により、お猿畠の大切岸が防御施設として作られたとする説には疑問が呈されています。

まとめ

切岸は、山城などの防御において重要な役割を果たした構造物です。その構造は、単に斜面を削るだけでなく、腰曲輪の形成や土の利用など、合理的な工夫が見られます。お猿畠の大切岸のように、かつては防御施設と考えられていたものが、その後の調査によって別の目的で利用されていたと判明する事例もあり、歴史的な構造物を理解するためには、多角的な視点からの検証が不可欠であることがわかります。

関連事項

山城：山を利用して築かれた城。
切通し：山や丘を切り開いて作った道。
切土：地面を削り、土を切り取ること。
堀：城や砦の周囲に設けられた溝。

参考文献

赤星直忠 1959「鎌倉の城郭」『鎌倉市史（考古編）』鎌倉市
赤星直忠 1972「逗子市お猿畠大切岸について」『神奈川県文化財調査報告書34集』神奈川県教育委員会
岡陽一郎（五味文彦・馬淵和雄編）2004「幻影の鎌倉城」『中世都市鎌倉の実像と境界』pp.41-64 高志書院
齋藤慎一 2006『中世武士の城』吉川弘文館

もう一度検索