お白石持

お白石持行事

お白石持行事、あるいは単にお白石持と呼ばれるこの祭事は、伊勢神宮で20年ごとに行われる式年遷宮において、地域住民や一般の人々が直接参加できる特徴的な行事です。新しく建て替えられた神宮の正殿の敷地に、清らかな白い石を敷き詰めるために執り行われます。

この行事は「伊勢の『白石持ち』行事」として国の選択無形民俗文化財に選択されており、その文化的価値が広く認められています。多くの人々が神宮の境内、特に普段は立ち入ることのできない正殿の近くまで進み、神聖な空間を体感できる数少ない機会でもあります。

祭事の概要とプロセス

伊勢神宮の正殿がある御敷地には、御白石と呼ばれる白い石と清石と呼ばれる黒っぽい石が敷き詰められています。このうち、御白石は20年ごとに新しいものに替えられます。この新しい御白石を奉献するのは、かつて神宮の神領であった地域の住民（旧神領民）と、全国から公募で選ばれた人々（特別神領民）です。歴史的には旧神領民の特権的な奉仕でしたが、現代ではより広い層に門戸が開かれています。

祭事は準備から奉献までいくつかの段階を経て進められます。

1. 御白石拾い: 奉仕者はまず、伊勢市内を流れる宮川などの清らかな川原で、奉献に用いる白い石を自ら拾い集めます。適した石は、子どもの握りこぶし大で、光沢と透明感のある石英質、適度に角ばっているものとされます。集めた石は、各地域の神社など清浄な場所で保管されます。
2. 奉献への準備: 式年遷宮の年になると、各奉献団は御白石を運ぶための奉曳車（ほうえいしゃ）の試し曳きを行います。また、行事に先立ち、二見浦の二見興玉神社で浜参宮を行い、心身を清め、行事の無事を祈願します。
3. 奉曳（運搬）: 行事当日、各奉献団は集めた御白石を樽に詰め、奉曳車や、内宮の川曳の場合はソリに載せて運びます。道中では、若者や子供たちによる活気あふれる木遣歌が歌われ、雰囲気を盛り上げます。宮域に近づくと、「エンヤ」という掛け声とともに勢いを増す「エンヤ曳き」となります。
4. 白石奉献: 宮域に入ると、御白石は神宮側の大八車に移し替えられ、奉献場所まで静かに運ばれます。代表者は神職に奉献目録を提出し、石は土枡に移されます。奉仕者は一人ずつ石を数個手に取り、白布などで包んでお祓いを受けます。お祓いを済ませた奉仕者は、神宮の瑞垣内、新しい正殿のすぐ傍まで進み、石を奉献します。これは一般人が正殿に最も近づける特別な瞬間です。

参加者と歴史

お白石持に奉仕する団体は奉献団と呼ばれ、旧神領の町や大字単位が原則です。第60回式年遷宮（1973年）からは全国からの参加を募る「一日神領民」制度が導入され、より多くの人が参加できるようになりました。奉献団の名称は地名だけでなく、地域の歴史や名所などを冠するなど多様です。

お白石持は、式年遷宮が始まった当初からあった行事ではないと考えられています。中世に入り、神宮の維持が困難になった時期に、地域住民が遷宮を支えるために労働を提供したことが始まりと推測され、お木曳行事とほぼ同時期に始まったと見られています。文献上の初出は、第40回内宮遷宮（1462年）に関する記録です。当時の記録からは、既に御白石を敷き詰めることが恒例化していた様子がうかがえます。初期には今よりも広範囲に石を敷き詰めたり、清浄性が重視されていたことが記録に残されています。

祭事の意義

お白石持行事は、参加者にとって単なる奉仕を超えた深い意味を持っています。この共同作業を通じて、地域社会の一体感が育まれ、次の20年、さらにその先を見据えた未来への意識が醸成されます。行事の準備や進行が世代から世代へと伝えられることは、伊勢神宮が祈り続けてきた「よろずよまで」の継承を象徴しています。また、式年遷宮は神宮の建て替えだけでなく、お白石持のような行事を通じて、伊勢のまちの文化的な再生と活性化にも貢献しています。そして、普段は立ち入ることのできない神聖な場所に足を踏み入れ、新しい正殿を間近に拝める経験は、参加する人々に特別な喜びと、神宮を支える旧神領民としての誇りを感じさせる貴重な機会となっています。

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