祓

祓（はらえ）ー神道の浄化と鎮魂の儀式

神道において、祓は極めて重要な儀式です。これは、心身や空間の罪や穢れ、災厄といった不浄を取り除き、清浄な状態を取り戻すための神事、あるいは呪術と言えるでしょう。神前で執り行われる祈祷を一般的に「お祓い」と呼びますが、その本質は、単なる災厄除け以上の深い意味を持っています。

祓の意義と目的

祓は、禊（みそぎ）や斎戒（さいかい）の後に行われることが多く、神と交流するための準備段階として位置付けられます。単なる個人の罪穢れだけでなく、世界に存在するあらゆる不浄を清め、「明（あか）き浄（きよ）き正しき直き」という理想の境地を目指す行為なのです。この姿勢こそが神道の根本思想であり、祓はその根幹をなす重要な儀式と言えるでしょう。出雲大社では、祓を「不浄を清浄に、不完全を完全に、不良を善良にすること。更には災いを除き幸福と平和をもたらすこと」と定義しています。

祓の具体的な方法は、神前で祈り、祓詞（はらえのことば）を奏上したり、財物を神に捧げることで、罪や穢れを清め贖うことを目指します。

祓の空間：祓所

祓の効果を高めるために、祭場とは別に「祓所」を設けることもあります。忌竹（いみだけ）を立てて斎場（いつきば）を作り、神職はそこで祓詞を奏上し、参列者の頭上や供え物の上を祓串（大麻）で清めます。場合によっては、沸騰させた塩水を振りかける塩湯行事なども行われます。

大祓：大規模な浄化の儀式

年に2回、6月と12月の末日に行われる大祓式は、大規模な祓の儀式です。大祓詞を奏上し、人々の心身の穢れや無意識の罪、過ちを清め、災厄を避けることを目的としています。大祓詞には禊と祓の両方の要素が含まれており、あらゆるものの罪穢れを祓い浄めるとされています。

「お祓い箱」の語源

かつて伊勢神宮の御師が全国に神札を配布していましたが、その神札を入れる箱を「お祓い箱」と呼んでいました。新しい神札が配布されると古いものは不要になるため、「お祓い」を「お払い」にかけて、「不要になったもの」を意味する「お祓い箱（お払い箱）」という表現が生まれました。

祓の歴史と変遷

古代においては、禊と祓はそれぞれ身体の穢れと心の罪を清める行為として区別されていましたが、次第に両者の機能が近くなり、「ミツギハライ」のように複合的に用いられるようになりました。法制史の観点からは、祓は当初、罪を犯した者が財物を献上して神に祈謝・贖罪を行う一種の財産刑であったという見方もあります。中世の文書には、穢れを理由に祓が延期・中止された記述も見られ、祓が穢れを除去するものではなく、むしろ穢れを忌避するものとして認識されていたことが分かります。

『古事記』や『日本書紀』には、須佐之男命の乱行とその後の贖罪の記述があり、これが祓の起源と関連づけられることもあります。律令制時代以降は、大祓が国家儀礼として行われるようになり、明治時代には再興、現在に至るまで重要な神事として位置づけられています。

もう一度検索