かんばん (ソフトウェア開発)

かんばんとは

かんばん（Kanban）は、ソフトウェア製品開発における効率的なプロセス管理手法です。この手法は、ソフトウェア開発者に過剰な負荷をかけることなく、ジャストインタイムでのソフトウェアリリースを重視しています。かんばんでは、顧客へのデリバリーに必要なタスクを定義し、そのプロセスを視覚化することで、関係者全員がタスクの進捗状況を把握できるようにします。また、タスクの作業者は、キューから作業をプル（引き取る）していくプル型システムを採用しています。

かんばんの二つの側面

ソフトウェア開発におけるかんばんは、大きく分けて以下の2つの側面があります。

方法論としてのかんばん: ソフトウェア開発におけるかんばんシステムを指し、組織に合わせてプロセスをインクリメンタルに進化させるアプローチです。
ツールとしてのかんばん: プロセスを視覚化するための管理システムです。開発内容、スケジュール、コストなどを可視化します。

方法論としてのかんばんは、英語圏では「Kanban」と大文字で表記されます。一方、シグナルとなるカードは「kanban」、プル型システムは「kanban system」と小文字で表記し区別されます。

方法論としてのかんばん

方法論としてのかんばんは、デイヴィッド・アンダーソンによって体系化された理論です。かんばんでは、作業進捗に合わせてプロセスを変化させ、組織に合わせたシステムを構築します。Work-in-progress（WIP：仕掛品）を制限したプル型システムを採用し、システムの運用やプロセスの問題を明確にし、継続的な改善を促します。このプル型システムの一例が、WIP制限されたかんばんシステムです。

基本原則

かんばんの基本原則は以下の通りです。

1. 現状を理解することから始める: かんばんでは、既存のプロセスや役割を尊重し、そこから継続的な改善を促します。特別な役割やプロセスを規定せず、現状のシステムを進化させることを重視します。
2. インクリメンタルな進化と変化: 組織は、継続的かつインクリメンタルにかんばんを進化させ、変化を起こすことに同意する必要があります。広範囲な改善は失敗するリスクが高いため、小さくインクリメンタルな進化を促進します。
3. 現在のプロセス、役割、責務を尊重する: 現在の組織には必要な作業や価値が含まれているため、それらを尊重します。変化への恐怖を取り除き、かんばんを推進するための理解を得ます。
4. すべての地位でのリーダーシップ: 個々の貢献者からマネジメントまで、組織内のすべての地位でリーダーシップを発揮し、促進します。

6つのコアプラクティス

デイヴィッド・アンダーソンは、かんばんの成功事例を観察し、以下の6つのコアプラクティスを定義しました。

1. 可視化する: 知識労働のワークフローは目に見えないため、可視化することで作業の進捗を理解します。一般的に、壁をステージに区切り、カードを貼り付ける方法が用いられます。
2. WIPを制限する: プル型システムではWIPの制限が不可欠です。これにより、継続的な進化を促し、システムの改善を促進します。WIP制限は、かんばんシステム、CONWIPシステム、TOCシステムなどで実現できます。
3. 流れを管理する: ワークフローにおける各状態の作業の流れを監視、測定し、レポートします。これにより、既存の仕組みの良い点と悪い点を評価し、継続的な改善につなげます。
4. 明確なポリシーを作る: プロセスの機能を明確にすることで、より合理的な議論が可能になります。曖昧な理解では、感情的な議論や主観に偏る傾向があるため、明確な理解が必要です。
5. フィードバックループを実現する: 作業の流れのレビュー、需要と供給能力の測定、メトリクスの確認などを通して、進化を促進します。フィードバックがないと、組織全体の改善は難しく、かんばんの価値を十分に発揮できません。
6. コラボレーティブに改善し、実験的に進化する: かんばんメソッドは、小さく継続的な進化を促進します。チームが共通理解を持つことで、問題に対する共通の理解が構築され、改善案の合意形成が容易になります。

かんばんメソッドは、科学的なアプローチを推奨しますが、具体的な手段は提供しません。一般的なモデルとして、制約理論（TOC）、深遠なる知識（Profound Knowledge™）、リーンソフトウェア開発などが挙げられます。

ツールとしてのかんばん

ツールとしてのかんばんは、方法論としてのかんばんを組織に適用し、変化を促進するためのツールです。ジャストインタイム生産システムで使われるカンバンは物理的なシグナルカードを意味しますが、ソフトウェア開発では、仮想的なかんばんシステム（Virtual kanban system）が用いられます。日本では、かんばん、かんばんボード、タスクかんばん、タスクボード、カードウォール、アジャイルかんばんなど、様々な名前で呼ばれています。

ツールとしてのかんばんには、いくつかのバリエーションがあります。

タスクの状態を可視化したかんばん: タスクの状態を「TODO」「DOING」「DONE」などのステージに分け、カードや付箋紙でタスクを可視化します。これは単純なタスク管理であり、かんばんシステムそのものではありません。
かんばんシステムのかんばん: 方法論としてのかんばんに基づいたツールです。WIP制限、プル型システム、価値の流れの可視化を特徴としています。