ジャストインタイム生産システム

ジャストインタイム生産システム（JIT）

ジャストインタイム生産システム（Just-in-Time, JIT）は、生産プロセスにおいて、必要な物を必要な時に必要な量だけ供給することで、在庫を徹底的に削減する生産方式です。このシステムは、トヨタ自動車が合目的経営の観点から導入したトヨタ生産方式として広く知られています。アメリカの自動車業界でもJITといえば、このトヨタ生産方式を指すほどです。

概要

トヨタ生産方式の基本的な考え方は、単なるコスト削減ではなく、限られた資源（人、設備、在庫）で効率的に生産を行う「限量経営」です。この方式では、徹底的な無駄の排除と効率化が追求されます。

ものの流れ（後工程引取方式）

ジャストインタイム生産システムの核となるのが、後工程引取方式です。この方式では、後工程が必要な時に必要な量だけ前工程から部品を引き取ります。前工程は、引き取られた量だけを生産します。これにより、工程間の仕掛在庫を最小限に抑えることができます。

仕掛在庫の最小化の理想は完全受注生産ですが、実際にはリードタイムの長期化が問題となります。特に大量生産品では、リードタイムの長さは販売機会の損失につながるため、ある程度の見込み生産が必要です。しかし、見込み生産は資金回収までの期間を長くし、販売不振時には大量の仕掛在庫損失を引き起こす可能性があります。後工程引取方式は、このジレンマを解決する鍵となります。

情報の流れ（カンバン方式）

ジャストインタイム生産システムでは、後工程から前工程への生産指示にカンバンと呼ばれる帳票を使用します。カンバンは、後工程に納品書として製品とともに渡され、後工程で製品が使われたら前工程に戻されます。前工程では、カンバンを受け取ったら、指示された量だけ生産を開始します。このカンバンの流れが、生産指示と部品供給をスムーズに行うための仕組みです。

カンバン方式では、販売側からの注文をどの工程に入れるか（店を構えるか）が重要です。製造の上流に店を構えると、仕掛在庫は最小限になりますが、顧客への納期は遅くなる傾向があります。完成品出庫側に店を構えると、製造工程数が多い製品では、上流工程へのカンバン伝達に時間がかかり、納期遅延を防ぐために見込み生産が必要になることがあります。店は上流工程から順にアルファベット（A店、B店など）で示されます。

電子カンバン

従来のカンバンは、紙やプラスチック製で、枚数管理や紛失、損傷などの問題がありました。特に、多工程や遠隔地の取引先がある場合、現物カンバンのやり取りは時間的なロスを生み、最上流部でカンバンに連動しない見込み生産が発生することがありました。

電子カンバンは、これらの問題を解決するために導入されました。電子カンバンの利点は、カンバン総量の把握が容易になり、生産量変動に応じた柔軟な対応が可能になることです。また、上流工程へのカンバン伝達が迅速になり、ジャストインタイム生産の精度が向上します。

一方で、電子カンバンには欠点もあります。トヨタ生産方式の重要な要素である「見える化」が阻害される可能性があること、現場作業者が手でカンバンを扱うことで生まれる連帯感が失われる可能性があることです。このため、バーコードやICチップを埋め込んだカンバンを使い、電子的な管理と現場での実務を両立させる方法も採用されています。

便係数

カンバンの発行から納品までの時間差を「便係数」と呼びます。例えば、1日に1回の配達で、発注から2日で納品される場合は「1-1-2」と表現します。便係数からリードタイムを算出することができ、生産計画を立てる上で重要な指標となります。

リスク・問題点と対策

災害・事故による部品不足

ジャストインタイム生産システムは、在庫を最小限に抑えるため、部品の供給が滞ると生産が即座に停止するリスクがあります。過去には、日本坂トンネル火災、阪神・淡路大震災、アイシン精機刈谷工場の火災、東日本大震災などにより、自動車メーカー各社が操業停止に追い込まれました。また、2020年以降のコロナ禍では、海外工場の操業停止により、サプライチェーンが寸断され、部品不足が深刻化しました。これらの教訓から、現在ではリスクの高い部品から優先的に複数発注体制に切り替える動きが進んでいます。

トラック物流における路上駐車

ジャストインタイム生産では、配送時間が厳密に指定されます。しかし、荷主がトラックの待機場所を提供しないことが多く、トラックが路上駐車をして時間調整をすることが問題となっています。これは、道路交通の妨げとなるだけでなく、地域住民にとっても迷惑となっています。

「ジャスト・イン・ケース」への転換

近年、コロナ禍や地政学的なリスクの高まりから、サプライチェーンが分断される懸念が高まっています。このため、調達先を国内や同盟国に切り替えたり、一定の在庫を確保する「ジャスト・イン・ケース」への転換を模索する動きも出てきています。

まとめ

ジャストインタイム生産システムは、効率的な生産を実現するための強力なツールですが、その運用には多くのリスクが伴います。今後は、リスクへの対策を講じつつ、より柔軟で強靭な生産システムの構築が求められるでしょう。

関連項目

混流生産
外段取り
下請いじめ
ミルクラン
生産技術
日本経営学会
大野耐一
製造に関する記事一覧
統計的プロセス制御
1997年アイシン火災
期間工（必要な人数を、必要な工数だけ）
宵積み

外部リンク

トヨタ自動車株式会社 グローバルサイト
企業情報>ジャスト・イン・タイムについて - トヨタ自動車によるジャスト・イン・タイムの紹介

もう一度検索