くにのあゆみ

『くにのあゆみ』の概要

『くにのあゆみ』は、1946年に日本の文部省が発行した国史の教科書で、連合国による占領下の日本で編纂されました。これは、国定教科書制の下で最後に発行された歴史教科書の一つであり、戦後に作成された初の国史教科書でもあります。当時の日本では、従来の記紀神話に基づいた国史教科書から有意義な転換が求められていました。『くにのあゆみ』は、考古学や民衆の生活を重視した新たな視点を取り入れ、歴史教育の先駆けとなりました。

成立の背景

第二次世界大戦後、日本は連合国による占領下にあり、従来の皇国史観に基づく歴史教育は見直される必要がありました。文部省は1945年に新たな教育方針を発表し、国史教科書の編纂に向けた動きを本格化させました。当初は従来の教科書改訂案が提出されましたが、連合国の関係者、特にGHQはその内容を認めず、新しい教科書の編纂を外部の研究者に委託するよう求めました。

その結果、古代から平安までの歴史を担当する家永三郎、鎌倉から室町時代を担当する森末義彰、江戸時代の岡田章雄、明治以降を担当する大久保利謙の4名の著者が選ばれ、1946年5月から執筆が始まりました。同年9月には『くにのあゆみ（上・下）』が国民学校用の歴史教科書として発売され、その後、中等学校用や師範学校用の歴史教科書も刊行されました。『くにのあゆみ』は、幅広い学年で使用され、1949年には1冊本としてまとめられ、1952年まで補助教材として利用されました。

教科書の特徴

『くにのあゆみ』は、全体の構成や多くの記述内容が従前の国定教科書である『初等科国史』と大きな変化はありませんが、歴史教育の目標が「皇国臣民の自覚を育てる」ことから「歴史的事象に対する思考力と判断力の養成」へと大きく舵を切りました。そのため、記述内容には多くの変更があり、逐次修正や新たな解釈が行われました。

評価と批判

『くにのあゆみ』の刊行後、多くの反響を呼びました。村川堅太郎はこの教科書における経済史や文化史、風俗史の取り入れについて高い評価を与えました。一方、宮本百合子は歴史教科書が描く内容に満足しつつも、日本の豊かな歴史の気力が欠けていると指摘し、改訂の必要性を訴えました。

しかし、他の歴史学者たちからの批判も多く、特にマルクス主義を支持する学者たちからは官僚主導で編纂されたことや、神話的な叙述の残存、皇室中心の国家観といった点に厳しい批判が寄せられました。

まとめ

『くにのあゆみ』は、戦後の日本に新たな歴史教育の方向性を示した教科書として重要な役割を果たしました。この教科書の編纂は国史教育の体系化を促進し、同時に社会科の導入に対する抵抗を生む契機ともなりました。日本の歴史教育の進展において、今後も『くにのあゆみ』の影響は大きいでしょう。

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