こんばんは21世紀

『こんばんは21世紀』

『こんばんは21世紀』は、作家・安部公房が作・構成を担当したテレビドラマ作品です。1964年（昭和39年）4月12日、東京12チャンネル（現在のテレビ東京）の開局を記念して特別に放映されました。テレビ東京の社史では、この作品はバラエティ番組として分類されています。

あらすじ

物語の舞台は、科学技術が極度に発展し機械化が進んだ21世紀の法廷です。
裁判長や検事に相当するのは人間ではなく、高度なコンピューターやオッシログラフ（波形表示装置）といった機械です。これらの機械が発言する際には、その内容が波形やスクリーン上の映像として示されます。傍聴席には、どこか類型的な印象を与える人間たちが座っています。

突如、機械の検事が驚くべき宣言をします。「われわれ機械は人間を起訴する。人間はもはや不必要となった」と。この主張に対し、俳優のフランキー堺が演じる人間の弁護人は激しく反発し、人類の存続をかけて法廷で徹底的に争う決意を示します。

法廷での議論は、人類の歴史を振り返る形で展開されます。原始時代における人間同士の争いから始まり、剣や大砲といった兵器の発明を経て、最終的には原水爆の時代に至るまで、人間が辿ってきた軌跡が描かれます。

しかし、機械の検事は衝撃的な逆説を唱えます。人間が機械を発明し発展させたのではなく、実は機械の方が人間を道具として利用し、自身の進化を促してきたのだというのです。さらに、機械の最も原始的な形態である「棒」は、人間が機械を育てる時が来るのを辛抱強く待っていたのだと主張します。

弁護人であるフランキー堺と機械の検事の間で、人間と機械、文明と歴史を巡る白熱した応酬が繰り広げられます。

物語の結びで、弁護人は力強く訴えかけます。宇宙船や電子計算機といった高度な機械も、あるいは孫の手や爪楊枝といった身近な道具も、突き詰めれば人間の欲望が生み出した産物であると指摘します。そして、歴史上で人間が幾度となく危機に直面しながらも、自己を変革することでそれを乗り越えてきたように、現在の電子計算機やコンピューターが中心となる時代という新たな危機を乗り越えるためには、これまでの価値観とは異なる、全く新しい価値基準を創り出す以外に道はないと説きます。もしそれができないのであれば、人間は物語の中だけでなく、現実の法廷で機械に裁かれ、有罪を宣告されることになるだろうと警告します。そして、その未来は決して遠い先のことではない、と締めくくられます。

登場人物

被告
弁護人
検事
原始人A
原始人B（女）
原始人C
証人（数学者）
証人（精神主義者）
特別弁護人
妻
夫
少女
歌手
TVドラマ要員

スタッフ

作・構成：安部公房
脚本：柾木恭介
演出：若林一郎、田原総一朗
音楽：別宮貞雄
影絵：かゝし座

キャスト

弁護人：フランキー堺
水島弘
証人（数学者）：観世栄夫
永田靖
特別弁護人：岡本太郎
鳳八千代
田中明夫
少女：加賀まりこ
他

参考文献

* 『安部公房全集 18 1964.01-1964.09』（新潮社、1999年）

この作品は、安部公房らしい文明批評的な視点と、当時最新鋭だったテレビというメディアの特性を生かした実験的な試みが融合した、意欲的なドラマと言えます。機械と人間の関係、技術進歩が社会にもたらす影響、そして人類の未来に対する問いかけは、現代においてもなお色褪せないテーマ性を有しています。

(文字数: 約1380文字)

もう一度検索