原始

原始とは

「原始」とは、人類の進化・発展段階において、最も初期の状態を指す言葉です。文明社会に対する未開・野蛮な状態と類似の意味で用いられることもあります。

原始学とその批判

19世紀後半、西洋社会では文明成立以前の人類を想定し、人類の進化を復元しようとする「原始学」が隆盛しました。当時の研究者は、人類の精神生活に人種差はない（人類の心的一体性）と考え、進化論と相まって、地域による文明・文化水準の差を進化の差と捉えました。これは、西洋社会を文明的に成熟した社会と見なす一方で、非西洋社会を未発達、あるいは野蛮・未開と見なす文化進化論を広めることになりました。

モルガン、タイラー、フレイザーといった初期の文化人類学者や、インド法、イギリス法、古代ローマ法を比較研究したメインなどが、その代表例です。

しかし、1920年代に入り、構造機能主義の登場やフィールドワークの活用により、人類学の研究方法が変化すると、文化進化論に基づく原始研究への批判が現れました。最大の批判は、原始社会と非西洋社会を同一視した点です。文化進化論は、ヴィクトリア朝のイギリス（および同時期の西ヨーロッパ・アメリカ）を人類文明の最高段階とすることを前提とし、西洋文明の合理主義的価値観に基づいて非西洋文明を評価しました。そのため、個々の民族が持つ文化の特徴や内在的意味が無視され、架空の人類史が創作されたという批判がなされました。

現代における「原始」の使用

文化進化論の影響を受けた偏見や誤解に基づく知識によって生じた原始学的な概念の使用は、学術の場においては限定的になっています。例えば、「原始時代」という表記は考古学では用いられず、「先史時代」や「原史時代」が用いられます。また、「原始人」という表現も、野蛮人・未開人という意味合いを含むため、代わりにアウストラロピテクスなどの属名を用いて、進化段階にある人類を分類・認識するのが一般的です。

参考文献

渡邊欣雄「原始」（『世界歴史大事典 6』教育出版センター、1991年）
八幡一郎「原始時代」（『日本考古学辞典』東京堂書店、1978年）

関連項目

古代
原始人
先史時代
石器時代
原始共産制
社会文化的進化

もう一度検索