さいごの戦い

ナルニア国物語最終章：最後の戦い

C.S.ルイスによる児童文学『ナルニア国ものがたり』シリーズの最終章、『最後の戦い』(原題: The Last Battle)は、1956年に出版され、同年にカーネギー賞を受賞した名作です。本書は、シリーズ時系列においても最終作にあたる『銀のいす』に続く物語であり、ナルニア世界の終焉を描いた作品として知られています。日本語訳は複数の版が存在し、岩波書店から刊行された瀬田貞二訳が広く知られています。

キリスト教的終末観とプラトンのイデア論

物語の中心は、キリスト教における「最後の審判」を思わせるハルマゲドンです。影の国と真の国という二元論的な世界観は、プラトンのイデア論を彷彿とさせます。この哲学的な奥深さが、単なる児童文学の枠を超えた作品としての評価を可能にしています。

賛否両論を巻き起こした結末

『最後の戦い』の結末は、非常に賛否両論を巻き起こしました。評論家の石堂藍氏は「茫然とするような結末」と評し、その衝撃的な展開は多くの読者に強い印象を与えました。一方、『ライラの冒険』の作者フィリップ・プルマンは、本書を「生を放棄し、死を賛美する最悪の結末」と痛烈に批判しています。日本の幻想文学作家である山尾悠子氏は、幼少期に本書を読んだ際の衝撃と、敵味方双方を含む世界の崩壊というイメージが心に深く刻まれていると述べています。このような賛否両論こそが、『最後の戦い』という作品が持つ力強さを示していると言えるでしょう。

主要登場人物

ユースチス・スクラブ: 人間の少年。シリーズを通して成長を見せる重要な登場人物です。
ジル・ポール: 人間の少女。ユースチスと共に物語の中心的な役割を果たします。
ヨコシマ: 年老いたずる賢い毛猿。物語の主要な敵役として、ナルニアを混乱に陥れます。
トマドイ: ヨコシマに操られる純朴なロバ。アスランの偽者として利用されます。
チリアン王: ナルニアの最後の王。ヨコシマの策略に翻弄されます。
アスラン: ナルニアの創造主である偉大なライオン。物語の終末において重要な役割を果たします。
* タシ: カロールメン人が崇拝する神。アスランと同一視されることで、混乱を招きます。

物語のあらすじ

ヨコシマは偶然手に入れたライオンの皮をトマドイにかぶせ、偽アスランとしてナルニアの人々を操ろうとします。ナルニアの人々は、偽アスランを本物と信じ込み、チリアン王ですら欺かれます。

この偽アスランを信じる者たちによって、ナルニアの国は荒廃の一途を辿ります。もの言う動物たちは奴隷のように扱われ、森の木々は切り倒され、チリアン王は捕らえられます。絶望的な状況の中、ユースチスとジルがナルニアに現れ、事態を打開しようとします。

ヨコシマは、隣国カロールメンの人々をナルニアに引き込み、アスランとタシが同一の存在であると偽ります。そして、真のタシが現れ、ナルニアとカロールメンの最後の戦いが勃発します。カロールメンの人々は捕らえたナルニアの人々をタシへの生贄として捧げようとします。

追い詰められたチリアン王は、カロールメンの隊長・リシダと共に、謎の「うまや」の中に飛び込みます。その「うまや」は、実は日の光あふれる別の世界への入り口でした。そこでチリアン王は、かつてナルニアを訪れた人々と再会し、アスランと対面します。

一方、偽アスランの正体を知った小人たちは、全てを疑うようになります。彼らは自身の心の囚われから逃れることができません。「うまや」の中に入ったときでさえ、明るい日中であることを認めようとしませんでした。

アスランは「時がきた」と宣言し、「時よ！」という咆哮と共に、空の星々が降り注ぎ、全ての生き物が「うまや」へと向かいます。生き物たちはアスランの顔を見て二手に分かれます。一方は影の中へ、もう一方は「うまや」の入り口へと入っていきます。

星々が降り注ぎ、天と地が空っぽになったナルニアは荒れ果て、最後は海に飲み込まれてしまいます。これがナルニアの終焉です。しかし、チリアン王たちは、「うまや」の向こう側が真のナルニアであることに気付きます。これまでのナルニアは「影の国」、まぼろしの世界だったのです。

子どもたちはチリアン王やナルニアの人々と共に黄金の門へとたどり着き、そこで過去のナルニアの人々や生き物たちと再会します。アスランは子どもたちに、もう元の世界に戻る必要はないと告げます。

複数の日本語訳

『最後の戦い』は、日本語でも複数の訳が出版されています。代表的なものとして、瀬田貞二訳（岩波書店）、土屋京子訳（光文社古典新訳文庫）、河合祥一郎訳（角川文庫）などがあります。それぞれに異なるニュアンスや解釈が込められており、読み比べてみるのも興味深いでしょう。

もう一度検索