河合祥一郎

河合祥一郎氏(1960年生まれ)は、日本の英文学者、翻訳家、そして東京大学大学院総合文化研究科教授として活躍する第一人者です。専門はウィリアム・シェイクスピアであり、その研究と翻訳活動は、学術界のみならず一般読者からも高く評価されています。

福井県出身の河合氏は、私立武蔵高等学校卒業後、東京大学文学部英文科に進学。同大学院人文社会系研究科修士課程を経て、ケンブリッジ大学へと留学し、博士号を取得しました。1994年に東京大学教養学部専任講師として教壇に立ち、その後助教授、准教授を経て、2011年には教授に昇任。

氏の学問への情熱は並々ならぬものでした。博士論文『ハムレットは太っていた!』の執筆過程では、あまりの困難さに研究者としての道を諦めようとしたエピソードも著書のあとがきに記されています。この論文は2001年にサントリー学芸賞を受賞し、氏の研究の深遠さと独創性を証明しました。

河合氏の学問的背景には、特筆すべき家系も影響を与えています。義父は英文学の東京大学名誉教授である高橋康也氏、祖母の大叔父はシェイクスピア戯曲を初めて全訳した坪内逍遥氏です。また、父は四国財務局長や名古屋証券取引所理事長を務めた河合一郎氏と、学界と政財界の両面において恵まれた環境で育ちました。

シェイクスピア研究においては、独自の解釈と翻訳で知られています。角川文庫で刊行中のシェイクスピア戯曲の新訳では、『ハムレット』において「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」という誰もが知る有名な一節を、これまで翻訳では使用されたことのなかった表現を用いて独自に訳出しました。また、シェイクスピア研究初期の重要な文献であるロバート・グリーンの「成り上がりもののカラス」について、シェイクスピアではなく俳優ジェイムズ・アレンを指していると論じ、学界に大きな波紋を広げました。

さらに、河合氏は実践的なシェイクスピア普及にも尽力しています。彩の国シェイクスピア・シリーズの企画委員長を務め、シェイクスピア全作品の上演という野心的な目標を掲げて活動しています。2008年には『リチャード三世』を狂言化した『国盗人』を執筆し、野村萬斎氏主演・演出による舞台公演を実現。2014年には「Kawai Project」を立ち上げ、自ら新訳・演出を担当した舞台作品を数多く上演し、シェイクスピア作品を現代的な視点で再解釈し、新たな魅力を提示し続けています。

その著作活動も多岐に渡ります。シェイクスピアに関する数々の単著、共著、編著を出版しており、『ハムレットは太っていた!』、『謎解き「ハムレット」名作のあかし』、『シェイクスピアの男と女』など、いずれも高い評価を得ています。また、シェイクスピア以外の作品翻訳も精力的に行い、『不思議の国のアリス』、『鏡の国のアリス』といった児童文学作品から、『オイディプス王』のような古典作品、『人間のしがらみ』のような近代文学作品まで、幅広い作品群を日本語に翻訳することで、日本の文学界に貢献しています。

河合祥一郎氏の研究・翻訳・上演活動は、シェイクスピア作品への理解を深め、その魅力を現代社会へと繋げる上で大きな役割を果たしています。今後も氏の活動から目が離せません。

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