さだまさし 1時の鬼の魔酔い

『さだまさし 1時の鬼の魔酔い』は、シンガーソングライターのさだまさしのレコードデビュー50周年を記念して企画され、東海ラジオをキー局として2022年 10月25日から2025年 3月24日まで放送されたラジオ番組です。番組は当初、『さだまさし（レコードデビュー50周年記念番組）「1時の鬼の魔酔い」』のタイトルでスタートしましたが、50周年を越えて放送が続いたことから、2024年 4月1日より『さだまさし 1時の鬼の魔酔い』に改題されました。

企画背景と東海ラジオとの縁

番組がスタートした2022年 10月25日は、さだが1973年にフォークデュオ・グレープの一員としてシングル「雪の朝」でレコードデビューした記念すべき日でした。東海ラジオは、さだがグレープ時代に発表した「精霊流し」を深夜番組『ミッドナイト東海』で繰り返しオンエアし、楽曲の全国的なヒットに大きく貢献した縁があります。この関係性は深く、以降も東海ラジオはさだの名古屋公演の主催を務めたり、さだが2009年の東海ラジオ開局50周年記念のトータルアドバイザーを務めるなど、デビュー当時から良好な関係を築いていました。

番組の企画は、さだ自身がレコードデビュー50周年を機に、「ある日突然『東海ラジオで番組をやりたい』という強い衝動に駆られ、強引にお願いした」という、東海ラジオの田中康之社長への直談判によって実現したというユニークな経緯を持ちます。

番組形式とスタンス

番組は基本的に東海ラジオのスタジオから生放送されましたが、時には「さだまさしの秘密基地」と呼ばれる特設スタジオや、文化放送のスタジオからの疑似生放送形式で届けられることもありました。また、スタジオ外での収録放送となる回も存在しました。

開始当初は火曜日の深夜1時からの放送枠でしたが、2023年3月27日からは月曜日の夕方6時に放送時間が変更されました。この枠移動は、深夜放送の企画を持ちかけたさだ氏に対し、東海ラジオ社長からの依頼によるものでした。ネット局が拡大する中で、各局では昼間から夜間まで様々な時間帯に放送されましたが、さだ氏本人は終始「深夜放送」としてのスタンスを崩さずに番組を進行しました。冒頭の挨拶では、タイトルに掛け合わせて「一時の気の迷い（1時の鬼の魔酔い）で深夜放送を始めた…」と語ることが恒例となっていました。

さだまさしの他の番組、特に文化放送の『さだまさしのセイ!ヤング』との共通点も多く見られました。例えば、さだ企画のスタッフなどがスタジオに入って進行するスタイルや、リスナーからのメッセージを紹介する際に「いらっしゃーい」と呼びかけながら鈴を鳴らす演出などがそれに当たります。一方で、メッセージ募集においては、『今夜も生でさだまさし』（NHK総合）が原則ハガキに限っているのに対し、本番組では開始当初からハガキ、FAX、メール、そして東海ラジオのホームページからの投稿と、多様な方法で受け付けていました。

出演者

メインパーソナリティー: さだまさし
準メインパーソナリティー: 吉田政美（グレープの相棒、株式会社まさし代表取締役社長）- 当初はゲスト出演でしたが、番組途中で準メインとしてレギュラー出演するようになりました。これは吉田氏がバップを定年退職した後、（株）まさしの代表取締役社長に就任し、さらにさだ氏のプロデューサーやグレープの再始動に携わるようになった経緯とも関連しています。
構成作家: 内田英一
スタッフ: 松本秀男（松本カメ男）、山本俊純（山本けしずみ）- 東海ラジオのプロデューサー兼ディレクター

また、東海ラジオでの生放送・収録時には、直前の番組『Live Dragons!』のMCである平松伴康が短時間飛び入り参加することがあり、野球に関する話題（ヤクルトファンのさだ氏と中日ドラゴンズ応援番組MCの平松氏）で盛り上がることが恒例でした。

ネット局の拡大

番組開始当初は東海ラジオのみでの放送でしたが、2023年3月27日の枠移動を機に、文化放送、北海道放送などへのネットが始まりました。その後も新規ネット局が続々と加わり、AM局のみならず、FM COCOLOやエフエム大分といったFM局にもネットされるという、AM制作番組としては珍しい広がりを見せました。西日本地域を中心にネット局は拡大し、一時は沖縄県を含む九州全7県のラジオ局にネットされるまでになりました。さだ氏はネット局を読み上げる際、「夢の○○局ネットでお送りします」と紹介するのが常でした。最終盤の放送では、吉田政美がネット局紹介を担当しました。最大で17局ネット体制となりましたが、熊本放送が2024年12月にネットを終了したため、最終的には16局ネットで最終回を迎えました。一部のネット局ではプロ野球中継の影響で放送日時が変更されたり、休止となる場合がありました。

主な企画

番組では多岐にわたる企画が実施されました。

ゲストコーナー: 吉田政美や元文化放送アナウンサーの寺島尚正が準レギュラーとして出演した他、蟹江篤子（元東海ラジオアナウンサー）、落語家の立川談春、FM COCOLOの野村雅夫など、様々なゲストが登場しました。
公開放送・公開収録: 2024年には、番組初の公開イベントとして「公開ラジオさだまさし 1時の鬼の魔酔い」が開催され、その模様は複数回にわたって放送されました。また、日本橋三越で開催されたさだまさし展での公開収録も行われました。
リスナー投稿コーナー:
「わたしの1時の鬼の魔酔い」：リスナーの「気の迷い」エピソードを募集。
「東海どう? 五十三次」：東海三県とその周辺の地域情報を紹介。
「全国硬い物選手権」→「全国酒のアテ選手権」：リスナーから寄せられた全国各地の硬い食べ物やおつまみを紹介。
「お笑いSDGs」：笑えるショートギャグを募集。
「吉田政美も知らないさだまさし」：グレープ結成以来の相棒である吉田氏に、さだ氏の知られざる素顔をインタビューする企画。
リクエスト・お便り紹介: リスナーからのリクエストやメッセージを紹介し、番組スポンサー提供のグッズプレゼントや、「ラストレター」としてのお便り紹介も行われました。
特集企画: 能登半島地震の被災地へのお見舞いや募金告知、被災地支援チャリティーコンサートの模様、高校生ボランティアアワードの特集など、社会的なテーマも取り上げられました。

番組の終焉と後継

2025年3月17日の放送で、さだまさし本人から翌週の放送をもって番組が終了することが告知されました。そして、2025年 3月24日の放送をもって約2年半の歴史に幕を閉じました。

しかし、番組の最終回では同時に、その翌週である2025年3月31日から、同じ時間帯で新番組『グレープのもう魔酔わない』がスタートすることが発表されました。この新番組では、パーソナリティをさだまさしと吉田政美のグレープ二人が務め、番組のスタンスも『1時の鬼の魔酔い』から引き継がれることが伝えられました。グレープがレギュラー番組を持つのは、1976年の解散に伴い文化放送『セイ!ヤング』を降板して以来、実に49年ぶりのこととなります。

『さだまさし 1時の鬼の魔酔い』は、さだまさしの50周年を彩る特別な番組としてスタートし、リスナーとの深い交流や全国へのネット拡大を通じて、多くの人々に愛されたプログラムとなりました。その「気の迷い」から生まれた深夜放送スタンスは、後継番組へと確かに引き継がれることになります。

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