さるぼぼ

飛騨地方の伝統工芸品「さるぼぼ」：歴史、文化、そして現代の進化

岐阜県飛騨地方で古くから作られている「さるぼぼ」は、愛らしい姿をした伝統工芸品として知られています。飛騨弁で「赤ちゃん」を意味する「ぼぼ」と「猿」を組み合わせた名前を持つこの人形は、近年では観光客向けのお土産として広く親しまれ、その人気は飛騨地方にとどまらず、日本全国に広がりを見せています。

さるぼぼの起源と意味

さるぼぼの起源は、奈良時代にまで遡ります。遣唐使が中国から伝えた「這子（はいこ）」や「天児（あまがつ）」と呼ばれる形代がその原型と言われています。当初は貴族の間で、正絹を用いた産着のお守りとして作られていましたが、次第に一般庶民にも広がり、安産、良縁、子どもの健やかな成長、そして無病息災といった願いが込められるようになりました。

時代の変遷とともに新たな人形が作られたり、外国から様々な人形がもたらされたりすることで、さるぼぼのような伝統的な人形文化は衰退していきました。しかし、飛騨地方のような山間部では、外部からの影響を受けにくい環境にあったため、さるぼぼの伝統は途絶えることなく受け継がれてきました。

さるぼぼと庚申信仰

さるぼぼと似たような人形は、庚申堂や民家の軒先に吊るされる猿の形をした人形として見られます。これらの猿人形は、庚申信仰に関連しており、人間の体内に宿る三尸という虫が、庚申の日に天帝に人の罪を報告に行くという信仰に基づいています。そのため、三尸の天敵である猿を模した人形を吊るすことで、災難を避けるという風習がありました。奈良のならまち庚申堂の身代り申や、京都の八坂庚申堂のくくり猿などがその例として挙げられます。ただし、これらの猿人形は、さるぼぼとは姿勢や形状が異なります。さるぼぼは、座ったような丸みを帯びた可愛らしい姿をしている一方、庚申信仰に関連する猿人形は、体を屈曲させ、頭を垂れた姿勢をしているのが一般的です。

現代におけるさるぼぼ

2007年には「飛騨のさるぼぼ」として地域団体商標に登録され、2008年には岐阜県郷土工芸品にも指定されるなど、さるぼぼは飛騨地方を代表する伝統工芸品として、その地位を確立しています。

近年では、伝統的な赤いさるぼぼだけでなく、青やピンクなど様々な色の「風水さるぼぼ」や、「うさぼぼ」「ねこぼぼ」といった動物とのコラボレーション商品、妊婦の姿をした「子福さるぼぼ」、忍者の格好をした「忍者さるぼぼ」など、多様なバリエーションが展開されています。コンビニエンスストアとのコラボレーションによるオリジナル商品も登場しており、「サークルKぼぼ」「ファミぼぼ」など、ユニークな商品も販売されています。

さるぼぼは、単なる土産物ではなく、飛騨地方の歴史、文化、そして人々の願いが凝縮された存在と言えるでしょう。その愛らしい姿と多様なバリエーションは、多くの人々の心を捉え、これからも飛騨地方の伝統文化として大切に受け継がれていくことでしょう。2009年にはイメージソング「さるぼぼ☆サルサ」も制作され、2019年には中日ドラゴンズの飛騨地方出身選手とのコラボ商品も発売されるなど、さるぼぼは現代においても進化を続け、その人気はますます高まっています。

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