すし太郎 (商品)

すし太郎

「すし太郎（すしたろう）」は、食品メーカーである永谷園が1977年より製造・販売を手がける、家庭用ちらし寿司の素として知られるロングセラー商品です。手軽に本格的な味わいのちらし寿司を作れることから、幅広い層に親しまれています。発売から40年が経過した2017年時点では、累計販売数20億食を突破する驚異的な実績を記録しています。

商品の特徴とヒットの要因

「すし太郎」が登場する以前にも、市場にはちらし寿司の素が存在していましたが、瓶詰めのものが主流であり、一度に多量に調理する必要があるなど、少量の寿司を個別に作りたいというニーズには必ずしも適していませんでした。これに対し、「すし太郎」は1パックで2人前という少量パックとして開発され、家族構成の少ない世帯や、高齢者の家庭、さらには二人暮らしや一人暮らしの家庭でも手軽に利用できる点が画期的でした。この「少量で手軽」というコンセプトが多くの消費者に受け入れられ、ヒット商品となった大きな要因の一つです。後に4人前パックも登場し、ファミリー層からの支持もより一層強固なものとなりました。

開発と製造の苦労

「お茶づけ海苔」や「松茸の味お吸いもの」、そしてフリーズドライ製法インスタントみそ汁の先駆けである「あさげ」など、数々のロングセラーを生み出した永谷園の創業者、永谷嘉男氏が、「すし太郎」の開発に着手したのは1976年頃のことです。当時の小学生の給食メニュー人気調査で、寿司が最も高い人気を集めていることに着目した永谷氏は、社内の各部署から専門知識を持つ人材を集め、寿司関連商品を開発するためのプロジェクトチームを結成しました。

開発は、それまで乾燥食品を主に扱ってきた永谷園にとって未知の領域であるウェット商品として進められることになりました。これが技術的な課題を生み、開発チームは試行錯誤を繰り返しました。特に困難を伴ったのが、酢を含む液体と様々なサイズの野菜といった具材を、均一かつ高速で袋に詰める「充填作業」でした。当時の技術では自動化が難しく、一つ一つ茶漉しなどで具材をすくって計量し、手作業で袋詰めするという根気のいる作業が必要でした。商品化が実現するまでには、プロジェクト発足から実に1年半もの歳月を要し、その後も調味酢の量の調整や具材の配合の見直しといった改良が続けられました。充填作業の完全な機械化は、発売からさらに数年後のこととなります。

市場展開とシェア争い

当時の新商品販売においては、まず一部の地域でテスト販売を行い、その結果を見ながら徐々に販売エリアを拡大していく手法が一般的でした。永谷園もこれに倣い、「すし太郎」は1977年10月21日にまず広島県と岡山県の百貨店、スーパーマーケットで先行販売を開始しました。この先行販売では爆発的なヒットとはならなかったものの、まずまずの売上を記録しました。これを受けて、翌1978年には関西地区での販売に踏み切ります。関西の百貨店で行われた店頭での実演販売が功を奏し、「すし太郎」は瞬く間に売り切れるほどの大ヒットを記録しました。

順調に売上を伸ばし、長らく市場で圧倒的なシェアを誇っていましたが、競合製品の登場や、スーパーマーケットで手軽ににぎり寿司が購入できるようになるなど、社会や消費者の食の嗜好が変化した影響を受け、一時期はシェアを2位に落とすこともありました。これに対し永谷園は、ひな祭りや七夕、ハロウィンといったイベント需要を取り込んだプロモーションを展開したり、消費者の健康志向に応えるべく、従来の米酢に加え黒酢を配合した「すし太郎 黒酢入り」を主力商品とするなど、きめ細かなリニューアルや新商品の投入を積極的に行い、商品の陳腐化を防ぐ施策を講じました。また、混ぜ込み梅ごまによりピンク色になる「すし太郎 彩りちらし」、茶碗一杯分を手軽に作れる「お茶碗でもすし太郎」、冷蔵保存するチルドタイプの「すし太郎プレミアムタイプ」といった多様なラインナップを加え、様々なニーズに応える体制を構築しました。

これらの商品戦略に加え、パッケージデザインの刷新や、後述するテレビCM戦略も奏功し、「すし太郎」は再び業界トップの地位を取り戻すことに成功しました。発売40周年を迎えた2017年時点では、「すし太郎」という名前は広く知られているものの、実際に食べた経験がない人も少なくないだろうという認識から、新たなレシピ開発や、消費者の期待に応える新商品開発への取り組みを怠らない姿勢を示しています。

テレビCMとその影響

永谷園は、「鮭茶づけ」のテレビCMで演歌歌手の北島三郎氏を起用し、そのヒット曲「函館の女」の替え歌を使ったCMが大きな話題となり、商品ヒットにも繋がった成功体験を持っていました。「すし太郎」のテレビCMにも、同様に北島三郎氏が起用されました。北島氏の出演は「すし太郎と言えば北島三郎のCM」と称されるほど象徴的なものとなり、当時の子供たちが一度は口ずさんだと言われるCMソングも商品人気に大きく貢献しました。ユーモアがありながらも、見る人に不快感を与えない秀逸なCMは、「すし太郎」が国民的な商品となる一因となったことは間違いありません。北島氏が出演するテレビCMは1991年に一旦終了しましたが、2001年には再び復活し復活し、再び商品の認知度向上に貢献しました。

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