せんざんき

愛媛のソウルフード「せんざんき」：歴史と味、そして地方の個性

愛媛県東予地方、特に今治市周辺で親しまれている郷土料理「せんざんき」。その魅力は、何と言っても鶏肉の骨付き肉を揚げた、独特の食感と風味にあります。

江戸時代から続く歴史：キジから鶏へ

「せんざんき」の起源は、約300年前の江戸時代まで遡ります。当時、近見山で捕獲されたキジを揚げた料理がその始まりと伝えられています。しかし、詳細な文献史料は現存しておらず、その歴史は語り継がれてきた口伝に依拠する部分が多いと言えるでしょう。現在の「せんざんき」は鶏肉を使用していますが、その歴史的背景は、キジ料理という狩猟文化と深く関わっていると考えられます。

今治の「スター」と「軟炸鶏」

現在の「せんざんき」が広く知られるようになったのは、今治市の湊町にあった「スター」という飲食店が提供していた「軟炸鶏」が転訛したことがきっかけと言われています。「軟炸鶏（ruǎn zhà jī）」は中国語で「骨付き鶏の唐揚げ」を意味し、この料理が愛媛の地に根付き、独自の進化を遂げたと言えるでしょう。

調理法：下味と揚げ方の妙技

「せんざんき」の調理法は、地域や家庭によって多少の違いはありますが、基本的には以下の手順で調理されます。まず、醤油、料理酒、生姜、ニンニクなどをすりおろして作った漬け汁に、鶏肉の骨付き肉を漬け込み、下味をしっかりとつけます。好みでみりんや砂糖を加える家庭もあります。次に、片栗粉と卵を混ぜ合わせた衣を鶏肉にしっかりとまぶし、油でこんがりと揚げます。

骨付きのまま揚げることで、鶏肉の骨から染み出した旨味が肉全体に広がり、独特の濃厚な味わいが生まれます。カリッとした衣とジューシーな鶏肉、そして奥深い下味が三位一体となり、多くの人々を魅了する、この地方ならではの食文化を築き上げています。

名称の由来：諸説あり

「せんざんき」という名称の由来については、いくつかの説があります。一つは、鶏を千枚のように細かく切ったことから「千斬切」という名がついたという説です。また、中国語の「軟炸鶏（ruǎn zhà jī）」の発音が変化したものという説や、他の説など、定説は存在しません。

地域差：「ざんき」との関連性

愛媛県新居浜市では「せんざんき」を「ざんき」と呼び、骨なしの鶏肉を使用するなど、今治市周辺の「せんざんき」とは調理法に違いが見られます。「ざんぎ」と呼ばれる北海道の唐揚げとの関連性も指摘されていますが、その関連性は現時点では明確にはなっていません。

まとめ：多様な魅力を秘めた郷土料理

「せんざんき」は、その歴史、調理法、名称など、様々な謎や魅力に満ちた郷土料理です。江戸時代のキジ料理を起源とする歴史、中国料理の影響、そして地域差など、多様な要素が複雑に絡み合い、現在の「せんざんき」という独自の食文化を形成しています。これからも愛媛の食文化を象徴する料理として、多くの人々に愛され続けることでしょう。

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