たんぽぽ計画

概要

「たんぽぽ計画」（Tanpopo mission）は、日本の科学者たちが主導する野心的な宇宙生物学プロジェクトです。この計画の主な目的は、生命そのものや生命の構成要素である有機化合物が、宇宙空間を越えて惑星間を移動する可能性、いわゆるパンスペルミア仮説を検証すること、そして地球の低軌道に存在する地球由来の微粒子を詳しく調査することにあります。

計画の名称は、宇宙へと旅立つ生命の種を、風に乗って遠くまで運ばれるたんぽぽの種になぞらえて名付けられました。

実施場所と開始時期

この実験は、国際宇宙ステーション（ISS）の日本実験棟「きぼう」に設置された船外実験プラットフォームで行われています。2015年5月に実験が開始され、宇宙航空研究開発機構（JAXA）をはじめとする、日本の26の大学や団体の研究者たちが、山岸明彦氏をリーダーとしてこのプロジェクトに取り組んでいます。

実験内容

たんぽぽ計画では、主に二つの重要な実験が進められています。

一つ目は、超低密度シリカゲル、通称「エアロゲル」を用いて、宇宙空間を漂う微粒子、特に宇宙塵を捕集することです。これらのエアロゲルは定期的に交換され、地球に持ち帰られた後に詳細な分析が行われます。

二つ目は、地球由来の様々な微生物をISSの船外に設置し、宇宙空間の過酷な環境に曝露させる実験です。これは、微生物が一時的にフリーズドライのような状態になった後、高度400キロメートルという低軌道上のような環境で生存できるのかを検証するためのものです。これらの実験を通じて、パンスペルミア説のいくつかの側面、例えば生命の起源が地球外にあり、流星や宇宙塵などによって地球に運ばれてきたといった仮説の検証を目指しています。

微生物曝露実験の詳細

曝露実験の対象となる微生物としては、放射線などに対する高い耐性を持つことで知られるデイノコッカス属の複数種（D. radiodurans, D. aerius, D. aetherius）や、酵母などが選ばれています。これらの微生物は、特殊な容器やバイオフィルムの形でISS船外に設置され、真空、極端な温度変化、強い宇宙放射線や紫外線といった宇宙空間の厳しい環境に長期間曝されます。

2017年5月に発表された中間報告では、約1年間にわたり宇宙空間に曝露された細菌を含むバイオフィルムの分析結果が示されました。特に、D. radioduransを含む複数の菌種が、最大で約10%という生存率を示したことが確認されました。これは、微生物が宇宙空間でも一定期間生き延びる可能性を示唆する重要な成果です。

これらの実験を通じて、宇宙空間における長期間の曝露が微生物の生存能力にどのように影響するのか、あるいはどのような変化をもたらすのかが詳細に調べられています。

有機化合物の捕集

たんぽぽ計画では、生命の材料となりうる前生物的な有機化合物、例えばアミノ酸などが宇宙空間に存在するかどうかも調査しています。エアロゲルを用いた粒子捕集実験は、宇宙塵だけでなく、こうした有機化合物を含む可能性のある微粒子を捉えることも目的としています。粒子捕集は3年間実施され、エアロゲルサンプルは計画期間中に複数回交換されました。

試料の回収と分析

ISS船外に設置されたエアロゲルや微生物サンプルは、ロボットアームなどを用いて定期的に回収されます。回収されたサンプルは、その後、地球への帰還カプセルなどに搭載され、地上へと輸送されます。2018年には、最終的な試料の一部が地球に持ち帰られました。

地上に到着したサンプルは、日本の研究機関で詳細な分析にかけられます。捕集された微粒子の物理的な特徴や軌跡が調べられるとともに、微生物学的、有機化学的、無機化学的な解析が行われます。特に、微生物が含まれている可能性のある粒子については、PCR法による遺伝子の増幅やDNAシークエンシングといった分子生物学的な手法が用いられ、微生物の特定や生存の有無が確認されます。

計画の意義

たんぽぽ計画の成果は、生命が地球上で誕生したのか、それとも宇宙から飛来したのかという、生命の起源に関する根源的な問いに答えるための重要な手掛かりを提供します。もし、地球低軌道のような宇宙環境で微生物の生存や、地球外からの有機化合物の存在が確認されれば、それは生命が宇宙空間を移動しうるというパンスペルミア仮説を強く支持する証拠となり、宇宙における生命の分布や進化に関する私たちの理解を大きく変える可能性を秘めています。

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