てしお (巡視船・3代)

海上保安庁砕氷巡視船「てしお」：オホーツク海の守護者

「てしお」は、海上保安庁が保有する砕氷巡視船です。その船型は500トン型と、砕氷船としては比較的コンパクトな設計となっています。これは、羅臼港や根室海峡といった水深の浅い海域での活動性を重視した結果です。同型船が存在しない、希少な砕氷船と言えるでしょう。海上保安庁の砕氷巡視船としては3隻目、自主建造としては2隻目の砕氷船として建造されました。

堅牢な船体と高い砕氷能力

砕氷船は、一般的に大型で強力な機関を持つほど砕氷能力が高まります。しかし、「てしお」は、そのコンパクトな船体の中に、驚くべき砕氷能力を秘めています。船首は30度の傾斜を持ち、厚さ55cmの氷を3ノットの速度で連続的に砕氷できます。さらに、ラミング（船首を氷に衝突させる砕氷方法）では、75cmの厚さの氷も砕氷可能です。75cmを超える厚さの氷には、チャージング（船体を氷に押し付ける砕氷方法）を用います。

小型ながら、その船体には様々な工夫が凝らされています。推進系を氷の破片から保護するボッシング構造、舵を保護するアイスホーン、チャージング時の過度な乗り上げを防ぐフォアフードなど、砕氷船として必要な装備が充実しています。船体の重量軽減のため、高張力鋼を多用し、特に耐氷性を必要とする部分には、低温での靭性に優れたD級鋼を使用しています。船体の構造は、砕氷船に多く採用されている横肋骨構造で、砕氷に晒される船首などは、外板を厚くし、肋骨を増やすことで強度を高めています。また、洋上での揺れを軽減するためのビルジキールも備えています。

強力な推進システム

「てしお」の主機関はディーゼルエンジンです。冷却水は、氷によって吸入口が塞がれるのを防ぐため、吸入した海水を貯蔵するタンクと復水器を備えています。プロペラは、推進力の向上と氷からの保護を目的に、シュラウド・リングを追加した可変ピッチプロペラを採用。操船性を高めるため、2基の舵と船首にサイドスラスターを装備しています。

活躍の記録と建造

「てしお」は、日本鋼管鶴見製作所で建造されました。設計にあたっては、日本海事協会の耐氷構造規則やカナダの規則を参考に、オホーツク海の流氷の特性を考慮しています。1995年10月19日に就役し、羅臼海上保安署に配属されました。

1996年3月8日には、初の救助活動を行いました。ロシアからの要請を受け、根室海峡のロシアが主張する領海内で流氷に閉じ込められたロシア漁船「シュムシュ107」を曳航し、流氷を砕氷しながら、安全な海域まで誘導することに成功しました。この出来事は、「てしお」の高い砕氷能力と、国際的な連携能力を示すものとなりました。進水式には、造船所を見学していた小学生も参加し、地域社会からも大きな期待が寄せられていました。

「てしお」は、厳しい自然環境の中、日本の排他的経済水域の安全を守り、人命救助に貢献する、なくてはならない存在です。その活躍は、今後もオホーツク海の海の安全に貢献し続けるでしょう。

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