とくし丸

株式会社とくし丸

徳島県徳島市に本社を構える株式会社とくし丸は、移動スーパーマーケット事業を展開する企業です。特に、地域社会で買い物が困難な状況にある人々、いわゆる「買い物難民」と呼ばれる方々への支援に注力しています。

誕生の背景と事業モデル

同社の創業は2012年。出版社「あわわ」の創業者である住友達也氏が、徳島の中山間地域で暮らす自身の母親が買い物の際に直面する苦労を知ったことが、事業を始めるきっかけとなりました。この経験から、買い物に不便を感じている高齢者などのニーズに応えるべく、自宅まで商品を届ける移動販売を専門に行うことを決めました。

「とくし丸」という社名には、創業の地である「徳島」と、社会や公共の福祉に貢献するという「篤志」の精神が込められています。

ビジネスモデルは、地域に根差したスーパーマーケットと連携する形式です。提携したスーパーの商品を移動販売車に積み込み、顧客の自宅玄関先まで運びます。商品の価格設定においては、通常のスーパーでの販売価格に加えて、一品ごとに10円から20円（提携先により異なる）を上乗せする「プラス10円ルール」「プラス20円ルール」を導入しています。これは、戸別配送という付加価値に対する料金であり、顧客は自宅にいながら多くの商品を見て選べる利便性を享受できます。

取り扱う商品は多岐にわたり、生鮮食品（刺身、肉、野菜、果物など）から惣菜、パン、菓子、さらにはトイレットペーパーや雑貨に至るまで、約400品目を扱います。顧客は約1200個から1500個の商品が積まれた販売車の前で、実際に商品を見て触って選び、その場で会計を済ませる対面販売形式です。

当初は地方の買い物困難地域を中心に展開していましたが、近年は都市部でも運転免許の返納や個人商店の減少などにより買い物難民が増加していることから、都市部への進出も積極的に行っています。2020年からはイトーヨーカドーとの提携を始め、新宿区など都市部でも100台以上が稼働しています。

全国展開も順調に進み、2020年10月には沖縄県での事業開始により、全都道府県での営業体制を確立しました。そして2022年5月には、移動スーパー業界で初めて稼働台数が1,000台を突破するなど、事業規模を拡大しています。

地域社会への貢献と「見守り」機能

とくし丸の事業は単なる商品販売に留まりません。移動販売を通じて、利用者の「見守り」機能を果たしている点も大きな特徴です。多くの市町村と「見守り協定」を締結しており、社会福祉協議会や地域包括支援センター、ケアマネージャー、民生委員といった関係機関と連携しています。

販売員が毎週利用者を訪問し、会話をすることで、利用者の体調や暮らしに異変がないかを確認します。もし異変を察知した場合は、速やかに適切な機関に連絡する体制を構築しています。これは、高齢者の一人暮らしが増える中で、非常に重要な社会インフラとしての役割を担っています。

また、行政や警察とも連携し、防災や防犯、熱中症予防などに関する啓発活動も積極的に行っています。2023年には環境省の取り組みに賛同して熱中症予防を呼びかけ、2024年には新宿区と連携して都市型地震への備えを促す啓発活動を行うなど、高齢者の安全・安心な暮らしを多角的にサポートしています。

さらに、災害発生時における支援活動も展開しています。2024年1月に発生した能登半島地震の際には、現地の販売員がスーパーマーケットなどと協力して食料品などを調達し、被災した顧客や避難所を巡回して物資を届ける支援を行いました。これらの社会貢献活動が高く評価され、2024年2月には総務省消防庁の第28回防災まちづくり大賞において、最優秀賞にあたる「総務大臣賞」を受賞しています。

利用者の約8割が70歳代から80歳代の女性であるという顧客層に合わせ、2023年8月には隔月刊の情報誌「ぐ〜す〜月刊とくし丸」を創刊しました。創刊号は4万部を発行し、雑誌を通じてエンターテインメントを提供することで、利用者の生活に彩りを加える取り組みも行っています。

「販売パートナー」という働き方

とくし丸の移動販売を担うのは、「販売パートナー」と呼ばれる人々です。原則として個人事業主がこの役割を務めます。本部が地域のスーパーマーケットと提携し、販売パートナーは自身が担当するエリアの提携店舗と契約を結びます。

販売パートナーの主な収入は、自身の売上に応じた歩合（売上の17％）と販売手数料の一部です。個人事業主でありながら、商品を自費で仕入れる必要がなく、拠点となる店舗の商品を「販売代行」する形式のため、生鮮食品などの売れ残りによる廃棄ロスが発生しない点が大きなメリットです。

本部と提携店舗の両方から、顧客開拓の方法や販売スキルなどに関するサポートを受けられる、独自のフランチャイズに近いスタイルと言えます。販売パートナーの収入は比較的安定しており、2024年のデータでは、開業から1年以上経過したパートナーの平均年収は約530万円、中には600万円から700万円以上の収入を得ている人もいます。顧客が高齢の買い物難民中心であるため、安定した需要が見込めることが収入の安定につながっています。9割以上のパートナーが年収400万円以上を達成しており、3年以上の継続率も9割を超えるなど、個人事業主としては高い定着率を誇ります。

販売パートナーの前職は多様で、自治体職員、自衛隊員、介護士など様々な経歴を持つ人々が参画しています。平均年齢は49歳ですが、最年少は22歳、最年長は72歳と幅広い年齢層が活躍しています。

提携ネットワークと外部からの評価

とくし丸が提携するスーパーマーケットは140社を超え、全国にネットワークが広がっています。地域に根差したローカルスーパーだけでなく、イトーヨーカドー、Aコープ系列、いなげや、デリシアなど、大手スーパーマーケットチェーンとの提携も多数行われています。

これらの取り組みは各方面から高く評価されており、これまでにも「日本サービス大賞 農林水産大臣賞」（2016年）、「環境省 グッドライフアワード 環境大臣賞優秀賞」（2017年）、「総務省 ふるさとづくり大賞」（2019年）、「消費者庁『見守り活動』貢献 表彰」（2022年）など、多数の賞を受賞しています。

メディアからも注目されており、2015年にはテレビ東京の「日経スペシャル カンブリア宮殿」で特集されたほか、関連書籍も複数出版されています。

まとめ

株式会社とくし丸は、買い物難民支援という社会的な課題に対し、移動スーパーという事業を通じて応えています。独自のビジネスモデル、地域密着型の見守り機能、そして社会貢献活動が高く評価され、全国で多くの人々の生活を支える重要なサービスへと成長しています。販売パートナーという個人が活躍できる仕組みも提供しており、多様な働き方としても注目されています。今後も、地域社会のニーズに応えながら事業を拡大していくことが期待されます。

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