とよはしまちなかスロータウン映画祭

とよはしまちなかスロータウン映画祭は、愛知県豊橋市で2002年から毎年開催されているユニークな映画祭です。この映画祭の最大の特徴は、市民が中心となって運営されている点にあります。2002年の初回は豊橋市青年会議所が主催しましたが、翌2003年からは市民有志で組織された実行委員会がその役割を引き継ぎました。運営資金は、基本的に行政からの補助金に頼らず、企業や個人からの協賛金、そして入場料収入だけで賄われています。特に予算の約7割を広告収入が占めており、地域からの支援が運営を支えています。また、「日本で一番入場料の安い映画祭」を掲げており、単券500円、通し券2,000円という手頃な価格設定で、多くの市民が気軽に映画を楽しめる機会を提供しています。運営には、愛知大学の映画研究会や桜丘高校の生徒など、若い世代もボランティアとして積極的に参加し、地域ぐるみの取り組みとなっています。

映画祭の始まりは、豊橋市の中心市街地から映画館が姿を消したという背景にあります。豊橋にはかつて多くの映画館が存在しましたが、1999年に郊外型シネマコンプレックスが開館した影響を受け、2000年から2001年にかけて中心部の映画館が相次いで閉館しました。このような状況に対し、「まちなか」に再び活気を取り戻す一環として、とよはしまちなかスロータウン映画祭は企画されました。第1回映画祭は、閉館したばかりの旧スカラ座と旧豊橋西武東宝を会場とし、青年会議所が主導して開催されました。週末ごとに名作や地元ゆかりの作品など1日2本、合計10本を上映し、特に『山の郵便配達』は立ち見も出せないほどの盛況ぶりで、初回から多くの観客を集めました。

会場は映画祭の歴史と共に変遷を遂げてきました。第1回は旧スカラ座と旧豊橋西武東宝、第2回・第3回は旧スカラ座のみで開催されました。しかし、旧スカラ座跡地にテナントが入ったことで、第4回からは豊橋グランドホテルや名豊ビルのコミュニティーホールなどを会場としました。そして、第15回（2016年度開催）からは、より本格的な設備を持つ穂の国とよはし芸術劇場PLATをメイン会場として使用しています。会場の移り変わりは、映画祭が直面した課題と、それを乗り越えて継続してきた軌跡を示しています。

各回ごとの特徴的な取り組みも映画祭の魅力です。第2回ではインターネット投票で上映作品の一部を決定したり、立川志らくの独演会やクレイジーケンバンドのライブといった関連イベントを実施したりしました。第3回では「スクリーンで見たい映画スター」投票を行い、オードリー・ヘプバーン主演の『ローマの休日』が最多動員作品となりました。また、豊川市出身の映画監督・園子温や俳優の宇津井健、活動弁士の佐々木亜希子など、様々なゲストを招いたトークショーや活弁付き上映も開催されています。節目となった第10回では、過去に上映した人気作品のリバイバル上映や、地元出身の俳優・平田満のトークライブなど、記念企画が行われました。

映画祭の枠を超えた「スピンアウト企画」も、まちなか活性化に貢献しています。2009年頃から、映画祭に賛同する個人や団体による番外イベントが行われるようになり、杉作J太郎、吉田豪らが参加する長時間トークイベント「ボーイズトーク」や、漫画家やコラムニストによるトークイベントなどが人気を集めています。これらの企画は、映画祭本編の時期とは別に開催されることもあり、年間を通して豊橋の「まちなか」に賑わいをもたらす役割を果たしています。とよはしまちなかスロータウン映画祭は、単なる映画上映イベントにとどまらず、市民の力で地域文化を育み、交流を深める場として定着しています。

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