なとりん号

なとりん号

宮城県名取市内を巡るコミュニティバス「なとりん号」は、市民の身近な交通手段として運行されています。これは、かつて市内の一部路線を運行していたミヤコーバスの撤退を受け、市民の移動手段を確保するために名取市が導入したものです。

沿革と運行体制の変遷

「なとりん号」は2008年4月1日に運行を開始しました。以来、利用者の利便性向上を目指し、路線の拡充や再編が繰り返し実施されています。例えば、2011年7月には新たに「植松入生線」の運行が始まりました。2013年4月には、ミヤコーバス閖上線の廃止に伴い「閖上線」の運行を開始するとともに、他の路線についても大規模な再編が行われました。2018年4月には「東部閖上循環線」が新設されたほか、既存の一部の路線では経路や運行ダイヤの見直しが図られています。

運行を担う事業者の変更も大きな節目となりました。2023年9月30日までは、桜交通と仙南交通がそれぞれ特定のブロックの運行を担当していました。しかし、翌10月1日からは大新東が運行を引き継ぎ、2023年度中は実証実験運行として実施されました。この実証実験を経て、2024年4月1日からは大新東による本格的な運行が開始されています。現在、大新東名取営業所がバス路線とデマンド交通「なとりんくる」の両方を運行しています。

名取市デマンド交通 なとりんくる

「なとりんくる」は、「なとりん号」のバス路線を補完する予約型の乗り合い交通サービスです。決まったルートやダイヤに従うバスとは異なり、事前に予約することで、利用者の自宅などから市内の指定された乗降場所まで直接移動できる柔軟な交通手段です。市内には約280箇所の指定乗降場所が設けられており、病院や商業施設へのアクセスを支えています。特に仙台南病院、県立がんセンター、総合南東北病院は特定指定乗降場所として扱われ、通常よりも広い範囲からの移動が可能です。

利用には電話、スマートフォン、パソコンからの予約が必要です。予約は希望する乗車時間の1時間前まで受け付けられています（仙台市からの出発の場合は例外あり）。運行エリアは中心エリア、東・1、東・2、西・1、西・2に区分され、各エリア内での移動や、東西のエリアから中心エリアへの移動が可能です。ただし、東西エリア間や中心エリア内のみの移動、仙台市への直接移動には制約があります。特定の医療機関である特定指定乗降場所への移動に限っては、どのエリアからでも利用できます。また、自宅などを個別の乗降場所として登録することも可能です。

車両はトヨタ・ヴォクシー（運転手を除き定員6名）が使用されており、運行体制は平日が6台、土日祝日が4台です。運行時間は午前9時から午後4時までで、最終乗車時刻は午後3時30分です。

路線網

2025年4月1日からの主な路線は以下の通りです（系統番号は省略）。これらの路線は、名取駅を中心に、市街地、住宅地、商業施設、行政機関、医療機関などを結んでいます。

• - まちなか循環線: 名取駅周辺の市街地を循環する路線で、市役所やイオンモール名取などを経由します。一部、上余田方面への系統も運行されます。
• - 愛島線: 名取駅や館腰駅と、愛島台、愛島郷、名取が丘方面を結ぶ路線です。時間帯によって経由地や行先が異なります。
• - 愛の杜循環線: 名取駅西口を起点に、仙台高専、県立がんセンター、愛の杜、名取が丘方面を巡る路線です。こちらも時間帯で運行経路が異なります。
• - 高舘線: 名取駅西口と仙台市内の南仙台駅西口を高舘地域を経由して結びます。
• - 閖上線: 名取駅東口から閖上地区、震災メモリアル公園、ゆりあげ港朝市、仙台空港方面に至る主要路線です。土日祝日にはアクアイグニス仙台への乗り入れ便も運行されます。
• - 相互台線: 名取駅西口から熊野堂、那智が丘、みどり台、ゆりが丘を経由し、相互台方面へ向かう路線です（平日のみ運行）。

これらの路線は、過去には幹線路線ブロックと生活路線ブロックに区分されており、さらに2018年以前には宮農線、北釜線、上余田線などが存在していましたが、路線の再編や統合により廃止されています。

運賃と運行日

「なとりん号」（バス）の運賃は、まちなか循環線が全区間100円の均一運賃であるのに対し、その他の路線は初乗り100円からの距離運賃制が採用されており、最大で400円です。小学生は半額、未就学児は無料となります。「なとりんくる」（デマンド交通）は、1乗車あたり400円の均一運賃です（小学生半額、未就学児無料）。運賃の支払いには、TicketQRアプリを利用したキャッシュレス決済も可能です。また、まちなか循環線を除くバス路線では、回数券や定期券も発行されています。

過去の運賃体系では、幹線路線ブロックは初乗り150円からの距離運賃制（最大400円）、生活路線ブロックは区間ごとに定められた運賃（150円～400円）、下増田線は150円均一など、運行ブロックによって異なる料金体系が適用されていました。閖上線の一部便では、過去に交通系電子マネーやQRコード決済が利用できた時期もありました。

「なとりん号」は、年末年始やお盆期間中に休日ダイヤで運行される場合を除き、年間を通じて毎日運行されており、市民の日常的な移動ニーズに対応しています。

その他

「なとりん号」が運行する路線の一部には、長い歴史を持つものがあります。北釜線、名取が丘愛島線、高舘線、県立がんセンター線は、元々は仙台市営バスの路線として開業し、その後に宮城交通、ミヤコーバスへと移管され、最終的に名取市のコミュニティバスとして引き継がれたという経緯があります。

運行開始以来、利用者数は増加傾向にあり、2017年度には年間約40万人の方に利用されました。これは運行開始当初の2008年度と比較して約22万1000人の増加にあたり、地域に根ざした交通手段として定着し、市民の生活を支えていることを示しています。

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