ふじ丸

「ふじ丸」（英語表記：Fuji Maru）は、かつて商船三井が所有し、後に日本チャータークルーズ株式会社が運航を担当したクルーズ客船です。日本チャータークルーズは、商船三井客船と日本クルーズ客船の共同出資により設立された会社でした。

建造と就航

1980年代後半、商船三井客船は、研修旅行など団体チャーターの需要増加に直面し、既存の「にっぽん丸」「新さくら丸」の2隻だけでは対応が難しくなっていました。また、同時期に企画されていた一般向けクルーズが早期に完売するなど好評を博しており、拡大する海外クルーズ市場への対応やサービス向上を目指す必要性が認識されていました。このような背景のもと、1986年12月に新造客船の建造計画が公表されました。日本のクルーズ客船の先駆けの一つとして、本船は三菱重工業神戸造船所で建造され、1988年（昭和63年）に進水、翌1989年（平成元年）4月に華々しく就航しました。進水式では、当時の運輸大臣、石原慎太郎氏の夫人である石原典子氏が命名を行いました。就航した時点では、日本籍の客船として最大の船でした。建造費用の一部は、1988年度の財政投融資を活用した日本開発銀行からの長期融資によって賄われています。その優れたデザインは高く評価され、1990年にはグッドデザイン賞を受賞しています。

船名と特徴

船名は1988年2月まで公募が行われ、21,093通もの応募が寄せられました。上位3案には「富士山丸」「ふじ丸」「新日本丸」が挙げられましたが、富士山や藤の花を連想させ、日本を代表する名前として「ふじ丸」に決定されました。本船の大きな特徴の一つに、日本船ならではの設備として展望大浴場が設置されたことがあります。この設備は、その後の多くの日本籍クルーズ客船において標準的なものとなりました。

設計思想

本船の建造にあたっては、当初、個人客を主な対象とする形態は時期尚早と判断され、団体客を中心とした利用が想定されて計画が進められました。しかし、レジャークルーズの需要増加に合わせて、パブリックスペースを大幅に増やし、研修や展示会などでの利用も想定された多目的な設計となりました。収容人数は、一般クルーズで約400名、団体クルーズでは約600名程度でした。船のサイズは、多くの港への寄港を可能とし、荒天時の揺れを軽減することを考慮して、全長165m、喫水6.55mに設計されました。速力は航海速力20ノットを有していましたが、12～13ノットでの低速運航も想定されていました。外観においては、側面に富士山をモチーフにした大型の煙突とストラットが配され、流麗かつ斬新なデザインが採用されています。最終改装は2005年2月に行われました。

運航と役割の変化

就航当初は、主に個人向けのレジャークルーズに利用されていましたが、2002年（平成14年）に運航が日本チャータークルーズに移管されてからは、自治体、企業、団体向けのチャータークルーズが中心となりました。内閣府が主催する「世界青年の船」や「東南アジア青年の船」といった国際交流事業にも本船が使用され、多くの若者の交流の場となりました。

引退とその後の運命

2012年10月、2013年6月をもって本船が引退することが発表されました。最後のクルーズは2013年6月30日から7月1日にかけて行われた東京港から初島への航海となり、これを最後に現役生活を終えました。引退後は、三井造船由良工場や常石造船などで係留されていましたが、2013年12月10日にはパナマ船籍のミラ・クルーズ社に売却され、「ミラI」（Mira I）と改名されました。ミラ・クルーズ社は、日本法人を設立し、本船を高齢者向けの療養客船として運航する計画を持っていましたが、韓国のセウォル号沈没事故以降、船舶の安全基準が強化されたことなどが影響し、事業化を断念せざるを得なくなりました。

その後も広島県福山市にある常石造船常石工場に係留され続けることとなります。2018年7月には、平成30年7月西日本豪雨で被災された方々のための臨時避難所として活用することが検討されましたが、最終的に実現には至りませんでした。

2019年1月、約5年間係留されていた常石造船を離れ、中華人民共和国に向けて回航されました。その後、2021年に中国国内でスクラップとなる予定でしたが、2022年1月には中国からパキスタンへと再回航され、そこで解体されることとなりました。

主な設備

本船には多種多様な施設が設けられていました。

8階
スカイラウンジ「アクアマリン」（45席）
プール
プールサイドベランダ
7階
サンデッキ
6階
スイートルーム（2室、35m²）
デラックスルーム（8室、25m²）
スーペリアルーム（一部、20m²）
スポーツデッキ
5階
スーペリアルーム（一部、20m²）
ステートルーム（一部、17m²）
大浴場、サウナ
ランドリー、ドライルーム、自動販売機コーナー
4階
ステートルーム（一部、17m²）
プロムナードデッキ（1周300m）
ランドリー、ドライルーム
3階
パシフィックホール（下層へ吹き抜け）
サロン「桜」（140席）
メインバー「琥珀」（30席）
ラウンジ「エメラルド」（250席）
ショップ、フォトコーナー
ベランダ（48席）
ライブラリー（10席）
談話室（20席）
カードルーム（28席）
和室「平成」（20畳）
オーナーズルーム「花車」（40m²）
2階
メインホール「パシフィックホール」（600席、2層吹き抜け）
メインエントランス、インフォメーション
ダイニングルーム「ふじ」（310席）
1階
シアター（142席）
診療所、美容室
B1階
シアター（1階シアターと共通）
フィットネスセンター

客室は主に、スイートルーム、デラックスルーム、スーペリアルーム、ステートルームの4タイプがあり、それぞれ広さや設備（バスタブまたはシャワー）が異なりました。

特別の運航

2011年（平成23年）の東日本大震災発生後、商船三井は被災地支援活動の一環として、本船を岩手県の主要3港（大船渡港、釜石港、宮古港）に派遣し、被災者への支援に活用されました。

ふじ丸

ふじ丸