ふるあめりかに袖はぬらさじ

ふるあめりかに袖はぬらさじ

作品概要

『ふるあめりかに袖はぬらさじ』は、作家・有吉佐和子が1970年に発表した短編小説「亀遊の死」を、自ら戯曲化した作品です。舞台は幕末の開港間もない横浜。遊郭「岩亀楼」を舞台に、異文化との接触や攘夷思想が渦巻く時代の中で、一人の遊女の悲恋と、その死が引き起こす騒動を描いた悲喜劇です。

初演は1972年、文学座によって上演され、お園役を杉村春子が演じました。その後、歌舞伎や新派、音楽劇など、様々な形式で上演され、多くの観客を魅了し続けています。

ストーリー

舞台は幕末の横浜。開港間もない遊郭「岩亀楼」では、花魁の亀遊が病床に伏せていました。恋仲である通訳の藤吉の励ましで快方に向かっていたある日、薬問屋の大種屋に連れられたアメリカ人イルウスが、亀遊を身請けしたいと申し出ます。

藤吉は通訳として、この身請けの交渉に立ち会いますが、複雑な思いを抱えます。最終的に、イルウスが亀遊を身請けすることになりますが、それによって藤吉との恋が叶わないことを悟った亀遊は、絶望のあまり自ら命を絶ってしまいます。

当時、尊王攘夷派と開国派の対立が激しかった時代です。亀遊の死は、異人に買われることを嫌ったためだと瓦版に書き立てられ、「攘夷女郎」として祭り上げられます。「露をだにいとふ倭（やまと）の女郎花（おみなえし）ふるあめりかに袖はぬらさじ」という辞世まで捏造される始末です。

岩亀楼は、この「攘夷女郎」の噂を聞きつけた客で賑わいます。亀遊の幼馴染である芸者のお園は、亀遊の自殺の真相を知りながらも、客に「攘夷のヒロイン」としての亀遊を語り、物語は次第に脚色されていきます。

登場人物

お園: 芸者。亀遊の幼馴染。
亀遊: 遊女。お園の幼馴染。藤吉と恋仲。
藤吉: 通訳。亀遊の恋人。
イルウス: アメリカ人。
大種屋: 薬問屋の主人。

主な舞台公演

1972年: 文学座公演（初演、お園役：杉村春子）
1988年: 歌舞伎公演（お園役：坂東玉三郎）
1992年: 歌舞伎公演（お園役：坂東玉三郎）
1996年: 歌舞伎公演（お園役：坂東玉三郎）
2007年: 歌舞伎公演（お園役：坂東玉三郎）
2011年: 新派公演（お園役：水谷八重子）
2012年: 歌舞伎公演（お園役：坂東玉三郎、亀遊役：石原舞子、藤吉役：松田悟志）
2012年: 歌舞伎公演（お園役：坂東玉三郎、亀遊役：檀れい、藤吉役：松田悟志）
2017年: 音楽劇（お園役：大地真央）
2019年: 音楽劇（お園役：大地真央）
2022年: 歌舞伎・新派合同公演（お園役：坂東玉三郎、亀遊役：河合雪之丞）
2023年: 新派公演（主演：大竹しのぶ）

作品のテーマ

この作品は、異文化との出会い、攘夷思想、そして人々の思惑が複雑に絡み合う幕末という時代を背景に、人間のエゴイズムや、時代の波に翻弄される人々の姿を描いています。また、一人の女性の死が、時代を動かす力を持つ可能性を示唆し、物語の虚構性と現実の曖昧さを観客に問いかけます。

脚注

尊王攘夷：幕末に起きた政治運動で、天皇を尊び、外国勢力を排除しようとする思想。
* 港崎遊廓：横浜にあった遊郭の一つ。

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