へびつかい座11番星b

へびつかい座11番星b (11 Oph b)

へびつかい座11番星b（11 Oph b）は、地球から見てへびつかい座の方向に位置するM型主系列星からなる連星系、へびつかい座11番星の周囲を公転していると考えられている天体です。

この天体が発見された当初、その極めて長い公転周期から、太陽系外惑星として知られている中では最も長い周期を持つものとして注目されました。しかし、後の観測や研究により、その公転周期の推定値や、天体そのものの分類について様々な議論が持ち上がっています。

長大な公転周期と記録の更新

へびつかい座11番星bの軌道周期は、およそ2000年であると推定されています。これは、太陽系で最も外側を公転する海王星の約165年という周期と比較しても、非常に長い期間をかけて親星の周囲を一周することを示しています。

ただし、この2000年という推定値には、±1000年という非常に大きな誤差が伴います。これは、軌道が極めて大きいため、観測によって正確な周期を割り出すのが難しいことを意味します。

へびつかい座11番星bは、しばらくの間、最も公転周期が長い惑星として記録されていました。しかし2016年、さらに遠大な軌道を持つ天体、2MASS J21265040-8140293が発見され、この記録は更新されました。2MASS J21265040-8140293の公転周期は、へびつかい座11番星bを遥かに凌駕する、推定約90万年という驚異的な長さです。

質量からくる分類上の曖昧さ

へびつかい座11番星bのもう一つの特徴は、その質量にあります。観測から得られた質量は、木星の約21倍とされています。

天文学では、恒星になりきれなかった低質量の天体を「褐色矮星」と分類し、その下限質量を木星の約13倍としています。これは、中心部で水素の核融合を起こす恒星とは異なり、重水素の核融合が起こるかどうかが基準となります。へびつかい座11番星bの質量は、この褐色矮星の下限質量である木星の13倍を大きく超えているため、厳密な定義に従うと、惑星ではなく褐色矮星に分類されるべきであるという指摘があります。

同様に、最長周期の記録を塗り替えた2MASS J21265040-8140293も、質量が木星の11.6倍から15倍と推定されており、こちらも惑星か褐色矮星か、その分類には曖昧さが残っています。

他の極端な周期を持つ天体との比較

天体の分類において、質量が木星の13倍を下回る（すなわち、より惑星である可能性が高い）という条件をつけた場合、最も公転周期が長い天体は、フォーマルハウトb（Dagonとも呼ばれる）となります。フォーマルハウトbの公転周期は876.7年と推定されており、へびつかい座11番星bの推定周期（2000年）より短いですが、質量基準で見た場合に、最も遠方を巡る「惑星」候補として挙げられます。

対照的に、既知の太陽系外惑星の中で最も公転周期が短いのは、PSR J1719-1438 bです。この天体はパルサーの周囲を公転しており、その周期はわずか2.18時間という驚くべき短さです。

このように、へびつかい座11番星bは、その極めて長い公転周期と、惑星と褐色矮星の境界にある質量という二つの点で、太陽系外天体の多様性を理解する上で興味深い存在と言えます。天体の発見と観測技術の進歩により、今後もこのような極端な性質を持つ天体が発見され、私たちの宇宙に対する理解が深まっていくことが期待されます。

もう一度検索