PSR J1719-1438 b
PSR J1719-1438 b
PSR J1719-1438 bは、太陽系から約4,000光年離れた位置にあるミリ秒パルサー、PSR J1719-1438の周りを公転する太陽系外惑星です。この天体は、その独特な性質と形成過程から、通常の惑星とは一線を画す極めて珍しい存在として注目されています。
物理的な特徴
この天体の質量は木星とほぼ同程度と見積もられていますが、その半径は木星の約4割ほどしかありません。このことから、その密度は驚異的な値である19.5 g/cm³に達すると推定されています。これは、一般的な岩石惑星やガス惑星の密度をはるかに超える値であり、その内部構造が通常の惑星とは全く異なることを強く示唆しています。
研究者たちは、この高い密度から、PSR J1719-1438 bがかつて白色矮星だった天体の高密度な中心核が残ったものであると考えています。その組成は、表面近くが主に酸素で構成され、内部は炭素が主体であると推測されています。特に、内部の炭素は極端な圧力下で結晶化しており、巨大なダイヤモンドの塊のような状態になっている可能性が指摘されています。
形成過程
ミリ秒パルサーの周囲に惑星が存在することは非常に稀であり、PSR J1719-1438 bのような天体がどのように誕生したのかは、通常の惑星形成理論では説明できません。この天体の形成には、壮大な恒星進化のドラマが関わっていると考えられています。
有力な説では、PSR J1719-1438 bは元々、現在の中心星であるPSR J1719-1438と連星を組んでいた伴星であったとされています。連星系の一方の星が先に進化し、超新星爆発を起こして中性子星（後のPSR J1719-1438）となった後、もう一方の星が進化して白色矮星になりました。この段階で、高速回転する中性子星の強い重力が、伴星であった白色矮星の外層の物質を大量に引き剥がしたと考えられています。
中性子星はこの物質を受け取ることで自転速度が加速され、わずか数ミリ秒で一回転するミリ秒パルサーへと変化しました。一方、白色矮星は外層のほとんどを失い、収縮した中心核だけが残りました。この残された中心核こそが、現在のPSR J1719-1438 bであると考えられています。残された核の質量は、元の白色矮星の質量のわずか約0.1%程度にまで減少したと推定されています。
軌道の特性
PSR J1719-1438 bは、その中心星であるミリ秒パルサーPSR J1719-1438の非常に近くを公転しています。その公転周期は約2時間11分と極めて短く、これは現在知られている太陽系外惑星の中で最短の記録です。また、中心星からの公転半径もわずか約66万キロメートルしかなく、これも系外惑星としては最も近い距離の一つです。この距離は、地球と月の間の距離の約2倍程度に過ぎません。この非常に短い公転周期と小さな軌道は、この天体が通常の惑星形成では生まれ得ない、特異な進化を経て誕生したことを裏付けています。
このようなパルサーの周囲を回る惑星系は希少であり、先行例としてはPSR B1257+12の惑星系などが知られています。PSR J1719-1438 bは、その高密度な構造、ダイヤモンドの可能性、そして白色矮星核に由来するというユニークな性質から、宇宙における極端な天体進化の興味深い一例として、今後の研究対象となっています。
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