へら絞り

へら絞りとは

へら絞り（へらしぼり）は、金属板を加工するための独特な塑性加工手法です。この方法では、平面や円筒の金属板を回転させ、へらと呼ばれる細長い棒を押し当てて少しずつ形を変えていきます。これにより、高精度で均一な板厚を持つ製品を製造することが可能です。一般に「絞りスピニング加工」や「へら押し」とも呼ばれています。

加工方法

へら絞りの工程は、まず素材をマンドレルという型の先端に固定することから始まります。その後、素材が1分間あたり数回転から最大3500回転の速度で回転し、伝統的には金属製または木製の型を使用します。対象の板が急激に変形する場合、型の形状に沿って少しずつへらやローラーを押し当てて加工します。

へらは一般的に工具鋼で作られ、その先端には強度を増すために焼入れ処理が施されます。また、素材とへらの接触部分ではグリースなどの潤滑剤を使用して摩擦を軽減します。加工時には、表からと裏から同時にへらを当てる場合もあります。大きな厚みの板やチタン、モリブデンといった難加工素材を扱う際には、加工時に板を加熱することがあります。

材料の制約

加工できる板厚は素材によって異なります。例えば、ステンレス鋼は3ミリメートル以下、アルミニウムは6ミリメートル以下が限界となります。大きく変形させる必要がある場合は、何度も少しずつ形を変えていく手法を用います。この場合、焼きなまし（熱処理）を行うこともあります。

用途

へら絞りは、その独特な特徴から、主に回転体の加工に利用されてきました。具体的には、鍋、やかん、鈴、擬宝珠などが挙げられます。量産品の製造が主流となるなか、航空機のノーズコーン、宇宙ロケットのペイロードフェアリング、パラボラアンテナなど、少量生産や高精度が要求される製品において依然として重要な技術です。

熟練の技

へら絞りは技術的に困難なため、熟練工による手作業が主流です。作業者は、へらの感触を通じて素材の変形状況を確認し、加える力を調整しながら進めます。また、大型の製品を加工する場合には、5〜6人の熟練工が協力して作業を行うこともあります。一部のプロセスでは型を使用せずに加工が可能ですが、加工条件の最適化には熟練工の知識と技術が欠かせません。

結論

へら絞りは金属加工の中でも特に精緻な技術であり、特殊な用途や少量生産において強みを発揮します。技術の進化と共に一部では機械化が進められていますが、熟練工の役割は今後も重要であり続けるでしょう。

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