みらい (海洋地球研究船)

海洋地球研究船「みらい」

「みらい」（RV Mirai）は、海洋研究開発機構（JAMSTEC）が運用する海洋地球研究船です。元々は原子力船「むつ」として建造されましたが、原子炉を撤去し、通常動力船として大規模な改造を受けました。その際、最新鋭の海洋観測機器が搭載され、国内最大級、世界的にも有数の海洋調査船として生まれ変わりました。

来歴

民間原子力船の試みと挫折

1950年代後半、欧米で民間用原子力船の建造が試みられる中、日本でも原子力委員会が海洋観測船の建造を計画しました。しかし、予算の問題から貨物船としての要素が強められ、1969年に「むつ」が進水しました。しかし、試験運転中に放射線漏れが発生し、地元住民の反対運動が起こるなど、困難な状況に直面。維持費も想定以上に高額になることが判明し、1992年に解役工事が始まりました。

気候変動観測体制の整備

JAMSTECは深海調査を主に行っていましたが、1980年代のエルニーニョ現象を契機に、気候変動への関心が高まりました。1987年から1988年にかけての小規模なエルニーニョ現象の際、JAMSTECは「なつしま」を投入して初のエルニーニョ観測を実施。しかし、「なつしま」は深海潜水調査船の支援母船であるため、継続的な観測には不向きでした。また、太平洋に海洋観測ブイ・ネットワークを構築する計画もあり、大型の母船が必要とされていました。

「むつ」の基本設計には海洋観測船としての要素が残されていたこと、深海調査や海洋資源探査にも対応できる仕様であったことなどから、1993年にJAMSTECに移管され、海洋観測船として再建造されることになりました。

設計

船体

原子炉撤去の際、船体は二分割され、前部は「むつ」の面影を残しつつ、石川島播磨重工業で、後部は三菱重工業下関造船所で大規模な改造が行われました。「みらい」という新船名の下には、「むつ」の文字が浮き彫りとして残されています。

当時、国内最大の調査船であった「よこすか」よりも大型であり、世界的に見ても屈指の大型調査船でした。観測甲板の乾舷をあえて高くすることで、波の打ち込みを減らす工夫がされています。また、ハイブリッド式減揺装置を搭載し、観測機器のハンドリングを行う際の安定性を高めています。耐氷構造も備えており、夏季の北極海域への航行も可能です。

機関

通常航行時はディーゼルエンジンを使用し、観測作業時には静音性の高いディーゼル・エレクトリック方式に切り替えるCODLOD方式を採用しています。主機関と主発電機は同機種で、整備の効率化が図られています。また、観測機器への影響を避けるため、防振対策も徹底されています。

2軸の可変ピッチプロペラ、3基のサイドスラスターにより、優れた操船性能を発揮します。

装備

「みらい」は、地圏・水圏・大気圏の全領域を総合的に観測できる汎用調査船です。研究区画は約510平方メートルにおよび、16の研究室および観測室に区分されています。また、航海情報および観測データを共有するためのネットワークも整備されています。

測位・地形調査

海底地形・地層データ取得のため、「かいれい」と同型のマルチビーム音響測深機（MBES）を搭載。その後、シービーム3012に更新され、より高精度な地形データ取得が可能になりました。

地質・地層調査

地質・地層調査用の装備も「かいれい」と共通化されています。地層探査装置（SBP）やピストンコアサンプラーなどを搭載し、海底下の地層構造や堆積物を調査します。

環境・気象調査

海洋観測ブイのハンドリングは本船の重要な任務であり、荒天時にも安全かつ迅速に作業できるよう、Aフレームクレーンやギャロースが設置されています。太平洋赤道域には、TRITONブイと称される海洋観測ブイ・ネットワークが構築されています。

船体中央部にはドップラー・レーダーが設置されており、大気の状態を観測します。また、ラジオゾンデも搭載されており、高層大気の観測も行われています。

船歴

1995年に「むつ」から「みらい」への改造工事が始まり、1997年にJAMSTECに引き渡されました。2003年から2004年には、JAMSTEC創立30周年記念事業として、太平洋・大西洋・インド洋を横断する大規模な海洋観測「BEAGLE2003」を実施しました。2011年には、福島第一原子力発電所事故による海洋汚染調査のため、福島県沖に派遣されました。2016年以降は、北極域研究推進プロジェクト（ArCS）に参加し、北極海での調査航海を重ねています。

後継船

政府の「北極政策」に基づき、「みらい」の後継船として砕氷機能を有する北極域研究船「みらいII」が建造されることになりました。「みらいII」は2026年11月に引き渡される予定であり、「みらい」は2025年度をもって運用を停止する予定です。

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