めぐり逢わせのお弁当

リテーシュ・バトラの長編監督デビュー作として2013年に製作されたインド映画。原題は『Dabba』、英題は『The Lunchbox』。現代インドの主要都市ムンバイを舞台に、弁当の配達ミスという偶然から始まった見知らぬ男女の文通を通して、それぞれの孤独や人生の希望を描き出す恋愛ドラマです。

製作にはインド国内に加え、ドイツやフランス、アメリカ合衆国の企業が参加しており、国際的な共同製作体制で作られました。

物語の概要

物語の主人公は、夫との冷え切った関係に悩む主婦のイラと、妻を亡くし孤独を抱えながら退職を間近に控える会計士のサージャン。イラが夫のために毎日心を込めて作った弁当は、ムンバイ特有の弁当配達システム「ダッバーワーラー」によって届けられていました。しかしある日、この弁当が手違いでサージャンの元へ配達されてしまいます。弁当が誤って届いたことに気づいたイラは、翌日、弁当箱に感謝と謝罪の手紙を添えて再び送ります。これを読んだサージャンは弁当の感想を手紙で返し、二人の間で弁当箱を通じた秘密の文通が始まります。

手紙のやり取りの中で、イラは夫との関係の悩みや日々の生活の出来事を綴り、サージャンは自身の孤独や仕事の引き継ぎ相手である若い同僚シャイクとの交流について語ります。互いの顔も知らないまま、手紙を通じて心を通わせていく二人。イラはサージャンの助言に希望を見出そうとしますが、夫の裏切りを知って関係修復を諦めます。一方、サージャンもまた、シャイクの結婚式を通して孤独な生活に変化を感じていました。

やがてイラはサージャンに会いたいと願い、手紙で待ち合わせ場所と時間を伝えます。しかしサージャンは指定された場所へ行きながらも、老いを感じてイラの前に姿を現しませんでした。その後、イラの父の死、サージャンの退職と転居といった出来事が起こり、二人の文通は途絶えそうになります。イラは夫と別れて娘と共にブータンへ移住することを決意し、サージャンへ最後の手紙を送ります。しかし、サージャンもまた心変わりし、イラを探すためにムンバイへと戻ってきます。物語は、ダッバーワーラーたちの活気ある歌声が響く街で、サージャンがイラを探し求める姿で締めくくられます。

製作背景

リテーシュ・バトラ監督は元々、ムンバイのダッバーワーラーに関するドキュメンタリーを製作しようとしていました。彼らと行動を共にする中で、主婦たちの個人的なエピソードに触発され、劇映画の脚本を執筆することを決意しました。脚本はルトヴィク・オーザーの協力のもと執筆され、ロッテルダム国際映画祭で脚本賞を受賞するなど、高い評価を得ました。キャスティングにあたっては、イルファーン・カーンが脚本に強く惹かれ出演を快諾。ヒロイン役はオーディションでニムラト・カウルが抜擢されました。また、登場人物のシャイクやイラのキャラクター設定の一部は、撮影中の俳優の即興演技によって作り上げられています。リアリティを追求するため、実際のダッバーワーラーたちも端役で出演しています。

製作費は約2億2000万ルピーで、ムンバイ市内で約29日間にわたる撮影が行われました。電車のシーンなど、限られた予算の中で工夫を凝らし撮影が進められました。

評価と興行成績

本作は、公開当初から国内外で批評家から絶賛されました。Rotten Tomatoesでは97%、Metacriticでも76/100という高い評価を獲得しています。特に、物語の繊細な描写や、主演のイルファーン・カーン、ニムラト・カウル、ナワーズッディーン・シッディーキーら俳優陣の自然で深みのある演技が高く評価されました。インド国内の複数の映画評論家も5段階評価で満点やそれに近い評価を与え、「孤独と愛、疲れ果てた魂が再び水を見付ける優しく脈打つ甘く切ない物語」といった称賛が寄せられました。

興行的にも成功を収め、インド国内で400スクリーン以上で公開され、累計興行収入は10億ルピーを超えました。海外でも大きな収益を上げ、特にアメリカ合衆国では423万ドルの興行収入を記録しました。イルファーン・カーン主演作としては、『ヒンディー・ミディアム』に抜かれるまで最も成功した作品でした。また、英国アカデミー賞非英語作品賞にノミネートされるなど、多数の映画賞で受賞・ノミネートされています。

アカデミー賞選考を巡る騒動

本作は第86回アカデミー賞外国語映画賞のインド代表として有力視されていましたが、インド映画連盟の選考委員会は別の作品『The Good Road』を選出しました。この結果に対し、プロデューサーのアヌラーグ・カシャップやカラン・ジョーハル、グニート・モーンガーらが公然と不満や失望を表明し、大きな議論を巻き起こしました。選考委員長からは、メディアの過熱報道への反発が委員の間に生じた可能性が示唆されています。

主要キャスト

- サージャン・フェルナンデス：イルファーン・カーン
- イラ：ニムラト・カウル
- シャイク：ナワーズッディーン・シッディーキー
- シュロフ：デンジル・スミス
- デシュパンデ夫人：バーラティー・アーチュレーカル
- ラジーヴ：ナクル・ヴァイド
- ヤシュヴィ：ヤシュヴィ・プニート・ナガル

本作は、現代社会における人々の繋がりや孤独を温かく描き出し、弁当という日常的なアイテムを通して普遍的な感情を伝えることに成功した作品として、今なお多くの映画ファンに愛されています。

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