もっとしなやかに もっとしたたかに

『もっとしなやかに もっとしたたかに』は、1979年に公開された藤田敏八監督による日本の劇映画です。小林竜雄が執筆し、1978年の城戸賞で準入賞を獲得した同名の脚本を映画化した作品であり、主演は森下愛子と奥田瑛二が務めています。

物語は、東京の古いアパートで一人暮らす若い男性、高木勇一を中心に展開します。宅配便のドライバーとして働く彼は、育児の重圧から家を出てしまった妻・君枝との関係に悩みながらも、いつか夫婦生活を取り戻したいと願っています。そんな彼の日常は、ひょんなことから出会った一人の若い娘、田口彩子によって大きく揺さぶられていきます。

ある日、仕事帰りの勇一は、路上で争う彩子に助けを求められ、彼女を車に乗せます。この出会いが、彼の人生に予期せぬ波紋を広げることになります。彩子は奔放でどこか危うい魅力を持ち、勇一は彼女に翻弄されつつも惹かれていきます。彼女は勇一の大切なカメラを盗むといった行動に出る一方で、人懐っこく世話好きな一面も見せます。一方、勇一はかつて蒸発した妻・君枝の目撃情報を得て、再会を果たし、改めて彼女に帰宅を説得しようと試みます。

物語は、勇一と彩子の刹那的な関係、そして勇一のもとに君枝が一時的に戻ってくることで、奇妙な三人での共同生活へと発展していきます。勇一と君枝はかつての夫婦関係を取り戻そうとしますが、三年というブランクとそれぞれの心の隔たりは大きく、育児を巡る問題なども重なり、二人の間には再び軋轢が生じます。その傍らで、彩子は勇一の息子や、入院中の父親とも自然に心を通わせていきます。特に勇一の父とは、血縁関係にないにも関わらず、献身的に見舞う姿も見せます。

しかし、三人での生活は長くは続かず、ある出来事をきっかけに彩子は勇一のアパートを去ります。その後、勇一の父親の容態が急変した際に、彩子から連絡が入ります。病院に駆けつけた勇一は、意識の薄れた父親が自分の名前だけでなく、君枝の名前も呼ぶのを聞きますが、君枝とは連絡がつきません。そんな状況で、病室の外に控えていた彩子が君枝の代わりとなって父の最期を看取り、深く悲しみます。父の死後、彩子は再び勇一の前から姿を消しますが、後に勇一は、彩子が父の入院中、誰にも知られることなく毎日見舞いに訪れていたことを知ります。

本作には、森下愛子が演じる掴みどころのない魅力を持つ少女・彩子と、奥田瑛二演じる優柔不断な主人公・勇一を中心に、高沢順子演じる家出妻・君枝、風間杜夫演じる勇一の旧友・海野、加藤嘉演じる勇一の父親など、個性豊かな登場人物が登場し、複雑な人間関係が描かれます。スタッフには、監督の藤田敏八をはじめ、撮影の前田米造、音楽の篠崎コウヘイらが名を連ねています。

本作は成人指定作品として公開されました。併映作は『桃尻娘 ラブアタック』でした。

主人公が、過去に囚われた関係性と、突如現れた新しく抗いがたい存在との間で揺れ動きながら、自身の生き方を見つめ直していく姿が描かれた作品と言えるでしょう。彩子の存在は、勇一にとって嵐のような出来事でありながら、彼の心に深い痕跡を残します。

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