ゆり (人工衛星)

ゆりシリーズ：日本の衛星放送の幕開け

日本における衛星放送の礎を築いた「ゆりシリーズ」は、宇宙航空研究開発機構（JAXA）の前身である宇宙開発事業団（NASDA）の手によって開発された一連の実験用衛星です。これらの衛星は、テレビ放送の新しい形態である直接放送衛星（DBS）システムのための技術実験を行うことを目的にしていました。

ゆり1号

「ゆり1号」とは、1978年4月8日にアメリカのケネディ宇宙センターからデルタ2914型ロケットによって打ち上げられた衛星です。この衛星は、東経110度の静止軌道に配置され、その後、同年7月20日から日本の郵政省電波研究所を中心に衛星放送の各種実験が実施されました。

しかし、1980年6月に中継器の送信機能が喪失したため、それ以降は主に伝播実験や管制・開発実験に切り替えました。1982年1月には姿勢制御用の燃料が不足し、運用を終了しました。このような初期の実験は、衛星放送システムの技術的基盤を構築するために重要な役割を果たしました。

ゆり2号

「ゆり2号」は、1984年と1986年にかけて打ち上げられ、衛星放送の新時代を開くこととなります。特に、この衛星から本格的な「一般視聴者を対象にした衛星放送」が開始されました。当初は2チャンネルで放送を試みましたが、技術的な不具合により1チャンネルでの暫定的な運用が行われ、その後のゆり2号bの成功により、本来の計画通り2チャンネル体制が実現しました。

1984年5月には、NHK衛星第1テレビジョンでの無料試験放送が始まり、1986年12月には衛星第2テレビジョンの試験放送もスタートしました。そして1989年には本格的な有料放送が行われるようになりました。

ゆり3号

「ゆり3号」は、1990年から1991年にかけて打ち上げられ、沖縄や小笠原など広範な地域への直接衛星放送を目的としました。1990年12月には試験放送が開始され、1991年4月には本格的な有料放送がスタートしました。また、同年11月にはハイビジョン専門の試験放送も開始され、衛星放送の新たな未来を切り拓きました。

電池不足と運用の課題

「ゆり」シリーズの運営中には、衛星が地球と太陽の間に位置する「食」という現象により、放送が中断される問題もありました。この現象のため、衛星が充分な電力を得られず、深夜から早朝にかけて放送が停止することがありました。

これに対処するため、後継衛星であるB-SATでは、蓄電池の強化が図られ、24時間体制での放送が可能となりました。この改善により、より安定した通信環境が整備され、視聴者へのサービスが向上しました。

終わりに

最後に、ゆりシリーズの衛星放送は1997年に終了しましたが、その後継として登場したB-SATは、より進化した衛星放送の形態を実現し、今日の我々が享受する多様な放送サービスの基盤を築くことになりました。日本における衛星放送の歴史は、このゆりシリーズなしには語れない重要な資料です。

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