よされ節

よされ節：東北の心を映す民謡

よされ節は、東北地方に広く伝わる民謡で、「よされ」という独特の囃し言葉が特徴です。この囃し言葉とともに、津軽三味線や太鼓などの楽器が奏でる賑やかな曲調が、聴く人の心を惹きつけます。よされ節には、地域ごとに異なる旋律が存在し、それぞれに独自の魅力があります。代表的なものとして、『津軽よされ節』、『黒石よされ節』、『南部よしゃれ節』などが挙げられます。特に『津軽よされ節』は、『津軽じょんから節』、『津軽小原節』と並び、「津軽三ツ物」と称される津軽民謡の代表的な曲の一つです。

よされ節の歴史

よされ節の起源は、19世紀前半に遡ります。当時、西日本で流行していた歌が東北地方に伝わり、それが地域独自の文化と融合しながら、現在のよされ節へと発展したと考えられています。この歴史的な背景が、よされ節の奥深い魅力を形作っています。

「よされ」の意味を巡る諸説

「よされ」という言葉の意味や語源には、複数の説があります。最も有力とされているのは「世去れ」という説です。これは、貧困や凶作といった厳しい世の中が去ってほしいという願いを込めたものとされ、実際に「世去れ節」と表記されることもあります。他にも、「よしなさい」という禁止の意味や、「余（私）は去る」という別れの言葉、「人が集まるように促す掛け声」といった解釈があります。さらに、「夜さり」（夜になるころ）が転じたという説や、古語の「夜さる（よさる）」が命令形になったとする説も存在します。

かつて東北地方では、凶作のために口減らしが行われたという背景から、「人が世を去れ」や「余った人は去れ」という意味が込められているとする説もあります。また、三味線の音色や泣く様子、雪が降るさまといった、擬声語・擬態語として捉えられ、厳しい寒さが「世から去れ」と訴えているように表現されることもあります。

これらの複数の意味が複合的に組み合わさって、「よされ」という言葉が使われているという解釈も存在します。例えば、飢饉などで生活が苦しい時には「世去れ」を願い、平和な時には「仕事を終えて宴を楽しもう」という意味が込められているという見方もあります。

よされ節を基にした歌謡曲

よされ節は、その独特の響きと哀愁を帯びたメロディーが、多くの音楽家や作詞家に影響を与え、様々な歌謡曲が誕生しました。以下はその代表的な例です。

岸千恵子 - 『千恵っ子よされ』
石上久美子 - 『世去れ三味線』
司千恵子 - 『よされ海峡』
清水まり子 - 『よされ川』
宮下和香 - 『よされ岬』
金沢明子 - 『雪よされ』
高木京子 - 『ヨサレ流れ旅』
岡本賢 - 『男・望郷よされ節』
広野ゆき - 『望郷よされ』
小林旭 - 『世去れのお涼』
みち乃く兄弟 - 『じょんがらよされ節』

これらの楽曲の歌詞には、岩木山や岩木川といった、青森県を代表する自然がしばしば登場します。これは、よされ節が地域の風土と深く結びついていることを示しています。

よされ節と関連する文化

よされ節は、単なる民謡としてだけでなく、地域の文化や人々の生活とも深く結びついています。青森県道13号大鰐浪岡線は、通称「津軽よされライン」と呼ばれており、この地域でよされ節が愛されていることを象徴しています。また、演歌の名曲『風雪ながれ旅』の歌詞にも「よされ」という言葉が登場し、よされ節が広く親しまれていることがわかります。さらに、テレビドラマ『津軽三味線よされぶし』も制作されるなど、よされ節は様々な形で現代に受け継がれています。

まとめ

よされ節は、その賑やかな曲調と「よされ」という囃し言葉が特徴的な、東北地方を代表する民謡です。その起源は19世紀前半に遡り、西日本で流行していた歌が東北地方に伝わったものが変化したとされています。「よされ」という言葉には、世の中の苦難が去るようにという願いや、別れ、掛け声など、様々な意味が込められています。よされ節は、現代の歌謡曲にも大きな影響を与え、地域の人々の生活や文化とも深く結びついています。

参考文献

『津軽世去れ節』 長部日出雄著/文藝春秋

関連項目

青森県道13号大鰐浪岡線（通称「津軽よされライン」）
風雪ながれ旅（歌詞に「よされ」が登場）
* 津軽三味線よされぶし （テレビドラマ）

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