わが町

わが町（Our Town）

概要

『わが町』は、アメリカの劇作家ソーントン・ワイルダーによる3幕の戯曲であり、1940年に映画化もされたピューリッツァー賞受賞作です。この作品は、ニューハンプシャー州にある架空の町、グローバーズ・コーナーズを舞台に展開します。劇の特徴は、特別な出来事が起こらない「日常」の中に潜む美しさや価値を描写することです。

内容

劇は進行役を務める舞台監督の言葉から始まります。「グローバーズ・コーナーズでは何も特別なことは起こりません」。この言葉通り、劇中で起こる出来事は、キャラクターの結婚や死などの大きなイベントのみですが、それらを日常生活の一部として描くことにより、観客に平凡な日常の貴重さを感じさせます。

第1幕

第1幕では、舞台監督が町の地質や歴史について説明し、グローバーズ・コーナーズが一般的な町であることを強調します。医師ギブス家と新聞編集長ウェブ家の家族が中心となり、町の一日を描くことで「日常生活」の様子が浮き彫りにされます。

第2幕

第2幕は、第1幕から3年後に設定され、ギブス家の長男ジョージとウェブ家の長女エミリーの結婚式を通して「恋愛と結婚」をテーマにしています。この幕では、2人の愛がどのように育まれ、結婚へと至ったのかが描かれます。

第3幕

第3幕は、その6年後の物語で、エミリーが出産中に亡くなる場面から始まります。彼女はそれ以前に亡くなった町の住人たちと墓場で対話し、「死」をテーマにした深い内容が展開されます。エミリーはこの中で、過去の生活や無常について考察を深めます。

演出スタイル

この劇の一大特徴は、その演出スタイルです。極めてシンプルな舞台装置が用いられ、机や椅子だけが置かれています。このような演出は、役者の動きにより感情や状況を表現し、観客が登場人物の生活や心情をより深く感じ取ることを可能にしています。この手法は、日本の能や中国の古典演劇の影響を受けたものとも言われています。

初演と評価

『わが町』は1938年2月4日にニューヨークのヘンリー・ミラー劇場で初演されました。その後、1944年には亡命先のアメリカでこの劇を観た著名な劇作家ベルトルト・ブレヒトが「進歩的な舞台」と記したことでも知られています。

映画化

本作は1940年に映画化され、その際にはウィリアム・ホールデンやマーサ・スコット、フェイ・ベインター、トーマス・ミッチェルなどが出演しました。監督はサム・ウッドで、アカデミー賞では作品賞にノミネートされ、主演女優賞にはスコットが、作曲賞にはアーロン・コープランドがノミネートされました。映画では、原作とは異なり、エミリーは産褥熱にかかりながらも生き残る展開となっています。日本では、『我等の町』というタイトルで公開されています。

このように『わが町』は、日常生活の美しさや儚さを描きながら、観客にその価値を問いかける素晴らしい作品です。

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