アイアン・レンジ

ミネソタ州北東部、スペリオル湖西岸に広がるアイアン・レンジは、その名の通り鉄鉱石の産地として世界的に知られています。地図上では矢じりのような形をしていることから、アローヘッド・リージョンとも呼ばれるこの地域は、イタスカ、エイキン、カールトン、クーチチング、クック、セントルイス、レイクの7郡にまたがり、2000年時点の人口は約32万2千人。その多くは、地域の中心都市であるダルースとその周辺に集中しています。ダルースは、市域人口約8万5千人、都市圏人口は約27万人規模の港湾都市です。

アイアン・レンジの経済を支えるのは、何と言っても鉄鉱石です。メサビ鉄山、バーミリオン鉄山、ガンフリント鉄山、クユナ鉄山など、複数の巨大な鉄山が存在し、特にメサビ鉄山はアメリカ最大、世界でも有数の規模を誇ります。メサビ鉄山にあるヒュール・ラスト・マホニング露天掘り鉄山は、世界最大級の露天掘り鉄山として知られ、その規模は圧倒的です。これらの鉄山から産出される鉄鉱石は、鉄道でダルースの港に運ばれ、五大湖・セントローレンス水路を経由して、アメリカ国内の工業都市や、ヨーロッパ、日本、中国へと輸出されています。かつてはダルースに加え、トゥーハーバーズの港も鉄鉱石の積出港として利用されていました。

しかし、アイアン・レンジの魅力は鉄鉱石だけではありません。ミネソタ州は「1万の湖の地」と呼ばれるほど湖が多く、アイアン・レンジにも大小数百の湖が点在しています。また、広大な森林もアイアン・レンジの特徴で、林業も盛んです。ボエジャーズ国立公園などの自然公園や国有林も多く、カエデ、オーク、ポプラなどの落葉樹が織りなす大陸性混交林は、豊かな自然環境を象徴しています。

気候は冷涼で、特に冬は厳しい寒さが続きます。年間平均気温は摂氏2～4度と、アラスカ州を除くアメリカ本土48州の中で最も寒い地域の一つです。ダルースなどのスペリオル湖沿岸部では、湖の影響で夏でも涼しく、6月でも摂氏10度に達しないこともあります。ダルースの1月の平均気温は氷点下13度、7月の平均気温は摂氏19度。このため、湖岸の都市は夏の避暑地としても人気があります。一方、内陸部は冬は氷点下40度を下回ることもありますが、夏は摂氏25度以上に気温が上がるなど、湖岸部と比べて気温の年較差、日較差が大きくなります。

アイアン・レンジの人口構成は、中欧や北欧からの移民が多く、特にダルースには20世紀初頭から第二次世界大戦頃にかけて大規模なフィンランド人コミュニティが存在しました。一方、アフリカ系アメリカ人の人口は比較的少ないです。アメリカ合衆国では、白人の多い地方部は概して共和党支持が多い傾向がありますが、アイアン・レンジはその例外です。ミネアポリス・セントポールと並んで伝統的に民主党支持が強く、ミネソタ第8選挙区では、民主党系の民主農民労働党（DFL）が1947年から現在まで勝利を収め続けています。2000年の大統領選挙では、ダルースにおけるラルフ・ネーダーの得票率が6.9％と、全米の同規模都市の中でも非常に高い数値を記録しました。2004年の大統領選挙でも、アイアン・レンジの大半の郡でジョン・ケリーが勝利しています。このように、アイアン・レンジは、豊かな自然、豊富な資源、そして独特の政治的背景を併せ持つ、ミネソタ州を代表する魅力的な地域なのです。

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