アイム・ダウン

アイム・ダウン：ビートルズのロックンロール・アンセム

1965年7月、ビートルズのシングル『ヘルプ!』のB面に収録された「アイム・ダウン」。ポール・マッカートニーが作曲したこの曲は、レノン＝マッカートニー名義ながら、彼の単独作品と言っても過言ではありません。マッカートニーは、リトル・リチャードのような、パワフルでシンプルなロックンロールを目指し、この曲を創作しました。それは彼らが長年挑戦してきた、「ロング・トール・サリー」のような曲を作る試みの集大成でもありました。

曲の背景と構成

この曲は、マッカートニーが恋人のジェーン・アッシャーの実家の地下音楽室で作曲したとされています。彼の記憶では、レノンは歌詞にわずかな修正を加えたか、作曲過程でいくつかのアイデアを出した程度で、ほぼ単独で作曲されたとされています。しかし、レノン自身は、後年インタビューで「少し手伝ったかも」と曖昧な発言を残しています。

「アイム・ダウン」はGメジャー、4分の4拍子で、I、IV、Vの3コードのみで構成されたシンプルな曲です。これはビートルズの曲としては珍しいシンプルさで、当時の彼らの作曲スタイルからは逆行するとも言われています。

曲の始まりは、マッカートニーの力強いボーカルのみ。ベースやドラムは控えめであり、彼のボーカルが際立ちます。そしてリフレインではスキャットが用いられ、曲の熱気が高まっていくのが特徴です。楽曲全体は、片思いの欲求不満を、自信に満ちた力強い演奏で表現しています。

レコーディング

1965年6月14日、ビートルズは『ヘルプ!』のレコーディング・セッション中に「アイム・ダウン」のレコーディングを行いました。ベース、ボーカル、ギター、ドラムといった基本トラックは7テイク録音され、7テイク目が採用されました。

その後、レノンとハリスンによるバッキング・ボーカル、スターのボンゴ、ハリスンのギターソロ、そしてレノンによるVOX Continentalを使用した電子オルガンソロが追加されました。このオルガンソロは、ビートルズのレコーディングにおいて、VOX Continentalが初めて使用された事例であり、レノンはジェリー・リー・ルイスのスタイルを模倣し、肘を使ってグリッサンドを奏でています。

発売と評価

「アイム・ダウン」は、1965年7月にシングル『ヘルプ!』のB面としてアメリカ、イギリスで発売されました。A面の「ヘルプ!」は両国で1位を獲得しましたが、B面の「アイム・ダウン」はチャート入りを果たしませんでした。

しかし、発売後、多くの音楽評論家や音楽学者から高い評価を受けました。その力強い演奏とシンプルな構成、そしてマッカートニーの野性的なボーカルは、「ロング・トール・サリー」を彷彿とさせる、ロックンロールの真髄を体現しているとして賞賛されました。

また、発表後長らくアルバム未収録だったことも話題になり、アルバムに収録されるまでファンや評論家からAppleレコードに批判が寄せられるほどでした。その後、様々なコンピレーション・アルバムに収録されるようになり、多くのリスナーに届くようになりました。

ライブパフォーマンス

1965年から1966年のツアーでは、「ロング・トール・サリー」に代わるラストナンバーとして頻繁に演奏されました。特に1965年8月15日のシェイ・スタジアム公演は有名で、その熱狂的な演奏はドキュメンタリー映画『THE BEATLES/シェアスタジアム|THE BEATLES_シェアスタジアム』にも収録されています。このライブでは、レノンの狂気的なオルガン演奏が観客を圧倒しました。

他のアーティストによるカバー

「アイム・ダウン」は、ビースティ・ボーイズやエアロスミスなど、数々のアーティストにカバーされています。ビースティ・ボーイズのカバーは、オルガンソロをギターソロに置き換えた大胆なアレンジでしたが、著作権の問題で発売されませんでした。エアロスミスのカバーは、アルバム『パーマネント・ヴァケイション』に収録され、高い評価を得ました。他にもハートやTHE BAWDIESなど、多くのアーティストが独自の解釈でこの曲をカバーしています。

まとめ

「アイム・ダウン」は、ビートルズの楽曲の中でも、特に力強く、シンプルで、そしてロックンロールの精神が凝縮された名曲です。そのシンプルさゆえに、多くのアーティストにカバーされ、世代を超えて愛され続けているのは、まさにこの曲の持つ普遍的な魅力の証と言えるでしょう。

もう一度検索