アイラトビカズラ

アイラトビカズラ（相良飛び葛）

アイラトビカズラ（学名：Mucuna sempervirens）は、マメ科トビカズラ属に属する常緑性のつる植物です。その起源は熱帯地域にあり、ひときわ目を引く巨大な花房を咲かせることが特徴です。

特徴

つるは黒褐色を帯び、葉は楕円形で先端が針のように尖っています。開花時期は4月下旬から5月上旬にかけてで、芳香を放つ暗紅紫色の蝶形花が十数個集まって房状に咲き誇ります。豆果は非常に長く、60cmに達することもあります。つる性植物でありながら、幹回りが50cmを超えるほど大きく成長します。

1962年に行われた人工授粉の実験により、中国中部に分布する常春油麻藤（ジョウシュンユマ
トウ）と同種であることが確認されました。

分布

原産地は中国の長江流域とされ、かつては日本にも広く分布していたと考えられていますが、現在では国内の2か所を除いて絶滅しています。20世紀末までは、熊本県山鹿市菊鹿町相良地区に1本のみ自生しているとされていました。しかし、2000年に相浦地域の沖合に浮かぶ九十九島の無人島、時計島（とこいしま）で自生しているのが発見されました。2001年には、時計島から持ち帰られた花弁や枝葉などが相良地区のアイラトビカズラと比較され、同種であることが確認されています。

相良地区のアイラトビカズラは樹齢千年とも言われ、1940年に国の天然記念物に指定され、1952年には特別天然記念物に格上げされました。さらに1976年には指定エリアが拡大され、現在も保護されています。指定名称は「相良のアイラトビカズラ」です。しかし、2020年4月には人為的なミスにより、その半分ほどが伐採されるという痛ましい出来事がありました。

国内の自生地では結実しないことが知られています。トビカズラ属の植物は、雄しべと雌しべを閉じ込めた竜骨弁を強い力で押し下げることで蜜を得られる構造になっています。同時に竜骨弁が開き、雄しべと雌しべが露出し受粉が可能となります。この受粉を媒介するのは、夜行性で比較的大きな動物（通常は植食性のコウモリ）であると考えられています。しかし、国内の自生地には、この受粉を担う動物が存在しないため、自然下での受粉が困難であると考えられています。

近縁種

近縁種としては、ウジルカンダ（学名：Mucuna macrocarpa）があり、別名イルカンダ、カマエカズラなどと呼ばれ、大分県や琉球諸島に分布しています。

名前の由来

「トビカズラ」という名前の由来には、二つの説があります。源平合戦の頃、壇ノ浦の戦いで敗れた平家の残党が相良寺に逃れてきた際、豊後竹田の源氏方の武将である緒方惟栄が寺を焼き討ちしました。その際、寺の千手観音が飛翔してこのカズラに飛び移り、難を逃れたという説。もう一つは、千手観音がカズラに姿を変えて飛来し、走落の坂を下る緒方三郎の足に絡みつき、落馬したところを残兵が討ち取ったという説です。

優曇華（うどんげ）

アイラトビカズラは霊華「優曇華」とも呼ばれ、「霊華は時を隔てて開花することがあり、開花すれば必ず国家的事変がある」という言い伝えがあります。実際に1929年5月に35年ぶりに開花した翌年には満州事変が勃発しました。仏教の世界では「三千年に一度開花し、その時には金輪王が出現する、または如来が現れる」とも言われています。

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