アイルランド・ポンド

アイルランド・ポンドの歴史：997年からユーロ移行まで

アイルランド・ポンドは、2002年までアイルランドで使用されていた通貨です。ISO 4217コードはIEP、記号は￡（ポンド・スターリングなど他のポンドと区別する際はIR￡も使用）。1999年1月1日にユーロ導入に伴い法定通貨としての役割を終えましたが、ユーロ紙幣・硬貨の流通開始（2002年）までは併用されていました。

997年から1826年：初期のアイルランド・ポンド

アイルランドの貨幣制度は997年に導入され、当初はイングランドと同様に1ポンド=20シリング、1シリング=12ペンスとされました。その後、貨幣の品質悪化や変動を経て、1180年代にはポンド・スターリングとの等価性が再設定されました。しかし、1460年からはアイルランドの貨幣がイングランドと異なる金属配合で鋳造されるようになり、両者の価値に差が生じるようになりました。

1689年から1691年の内戦中には、ジェームズ2世が卑金属による緊急通貨（ガン・マネー）を発行しました。1701年にはアイルランド・ポンドとスターリングの比率が13アイルランド・ポンド=12ポンド・スターリングと定められ、アイルランドの銅貨はブリテンの銀貨と併用されるようになりました。1804年から1813年にはアイルランド銀行がアイルランド・ペニーの代用銀貨を発行するなど、変遷を繰り返しました。最終的に、1826年1月にブリテンの通貨に移行し、アイルランド独自のポンドは廃止されました。ただし、アイルランドの各銀行はスターリング紙幣の発行を継続しました。

アイルランド独立以降：自由国ポンドとアイルランド・ポンド

アイルランド自由国の成立後、1928年には新たなアイルランド・ポンド（自由国ポンドとも呼ばれる）が導入されました。これはスターリングとペッグされており、￡sd（アイルランド語ではpunt, scilling, pingin）制度が採用されました。自由国ポンドの硬貨・紙幣が発行された一方で、スターリングの硬貨・紙幣も同額面で併用可能でした。

1938年の憲法改正と国名変更に伴い、自由国ポンドは「アイルランド・ポンド」と改称されました。ポンドの価値や補助単位（1ポンド=20シリング=240ペンス）に変更はありませんでした。

十進法化

1960年代に本格的に議論された十進法化は、1969年の法律で決定されました。1ポンド=240ペンスから100ペンスに変更され、ペニーの記号も「d」から「p」に変更されました。ポンドの価値自体は変わらず、紙幣にも変更はありませんでしたが、10シリング紙幣に代わり50ペンス硬貨が導入されました。新硬貨はイギリスの新硬貨と同一の額面・素材で鋳造されました。1970年には新硬貨発行以外の切り替えに関する規定が追加されました。

アイルランド十進通貨委員会の主導の下、周知活動も展開され、1971年2月15日（D-Day）に十進法化が実施されました。その後も、アイルランドの硬貨に対応するイギリスの硬貨が事実上使用可能でした。

スターリングとの連関性の消滅とユーロへの移行

1970年代の欧州通貨制度参加を受け、アイルランド・ポンドとスターリングの等価性は欧州為替相場メカニズムにより消滅しました。1979年3月30日、50年以上にわたる両通貨の連関性が断たれ、為替相場制に移行しました。アイルランド経済の多様化が進んだことで、対英貿易への依存度は低下していましたが、スターリングは国内で広く使用され続けました。

1978年にはカレンシー・センターが設立され、アイルランドの紙幣・硬貨は国内で生産されるようになりました。1986年以降は、アイルランドの硬貨のデザインや大きさがイギリスの硬貨と異なるものになりました。

1998年12月31日、アイルランド・ポンドとユーロの為替レートが固定され（1ユーロ=0.787564アイルランド・ポンド）、翌日から銀行間決済などでユーロが導入されました。2002年1月1日にユーロ紙幣・硬貨が導入され、アイルランド・ポンドの法的効力は2002年2月9日に停止されました。中央銀行では、ポンドとユーロの交換を無期限に受け付けています。アイルランドでの現金切り替えは迅速に進みましたが、一部商店ではポンドの受け取りを拒否するところもありました。

隠されたインフレーション

D-Dayやユーロ切り替えの混乱に乗じ、金融トレーダーが物価を吊り上げたという見方もありました。政府は物価変動回避のための措置を講じましたが、効果は限定的でした。ユーロへの移行は好景気時と重なり、インフレーション率が高かったことも、市民の不満を招きました。

まとめ

アイルランド・ポンドの歴史は、アイルランド独自の通貨制度の確立と変遷、そしてイギリスとの複雑な関係、ユーロへの移行という大きな転換点を示しています。この過程では、貨幣の品質、政治情勢、経済政策、国際的な通貨制度の変化など、様々な要因が複雑に絡み合っていたことがわかります。

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