アイン・アル＝アラブ

アイン・アル＝アラブ（コバニ）：シリア北西部の歴史と激動

アイン・アル＝アラブ、別名コバニは、シリア北西部アレッポ県に位置する都市です。2004年の国勢調査では人口44,821人を数え、クルド人が大多数を占め、アラブ人、トルクメン人、アルメニア人も居住していました。シリア内戦において重要な役割を果たした都市であり、その歴史と現状について詳細に見ていきましょう。

名称の由来

アラビア語名のアイン・アル＝アラブは「アラブの泉」を意味します。一方、クルド語名のコバニの由来は定かではありませんが、オスマン帝国時代に建設されたバグダード鉄道と関連する民間語源説も存在します。

歴史：オスマン帝国時代からフランス委任統治領時代へ

1892年、半農半遊牧のクルド人がこの地に小さな村を形成しました。1912年、バグダード鉄道が開通すると、駅が設置され、労働者たちが集まるようになりました。この頃、駐留していたドイツ人技師は、この村を「ユーフラテス川の東35キロメートルの位置にある小さなクルド人の村」と記録しており、泥煉瓦造りの家々や近隣のクルド人部族による鉄道工事襲撃の様子も記されています。

1915年にはアルメニア人虐殺を逃れたアルメニア人が駅近くに町を築き、周辺のクルド人も加わって発展しました。1921年、トルコとシリアの国境線がバグダード鉄道沿いに引かれると、町の一部はトルコ領となり、現在のトルコ、シャンルウルファ県のミュルシトプナルとなりました。

アイン・アル＝アラブの都市基盤は、主にフランス委任統治領シリア時代にフランス当局によって整備されました。現在もフランス時代の建造物が数多く残っています。20世紀半ばまでは多くのアルメニア人が居住し、3つのアルメニア教会が存在していましたが、1960年代にはソ連領アルメニアへの移民が進みました。

シリア内戦とコバニ包囲戦

シリア内戦が始まると、2012年7月19日、アイン・アル＝アラブから政府軍が撤退し、クルド人民防衛隊（YPG）が支配下に置きました。YPGとクルド民主連合党（PYD）は、この地域をシリアのクルディスタンの一部と見なし、自治化を目指しました。2014年1月27日にはコバニ地区が設置され、コバニはその中心地となりました。

しかし、ISIL（イラク・シリア・イスラム国）の攻勢が開始され、同年7月2日には本格的な攻撃が始まりました。9月16日には、ISILによるコバニ包囲戦が再開され、多数の避難民が発生し、国際社会の注目を集めました。10月には防衛線が突破され、市街地の多くがISILによって掌握される寸前となりました。クルド勢力が陥落すれば住民や兵士への虐殺が危惧されたため、アメリカ合衆国を中心とした多国籍軍による空爆が行われ、クルド勢力への支援が強化されました。2015年1月27日、クルド勢力は市街地を完全に奪還しました。

トルコ軍侵攻と現状

2019年10月、トルコ軍によるシリア領内への侵攻が始まると、クルド勢力はロシアを仲介役としてシリア政府軍に支援を要請し、アイン・アル＝アラブを放棄しました。同年10月16日、シリア政府軍とロシア軍が市内へ進駐しました。

アイン・アル＝アラブは、その地理的条件と歴史的背景から、シリア内戦において戦略的に重要な都市となりました。多様な民族が共存するこの都市の未来は、依然として不確実なままです。

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