トルクメン人

トルクメン人：中央アジアの遊牧民から独立国家へ

はじめに

トルクメン人は、中央アジアに居住するテュルク系民族です。トルクメニスタンを主要な居住地とし、ウズベキスタン、タジキスタン、イラン、アフガニスタンなどにもその人口が分布しています。その歴史は古く、遊牧生活から定住生活へと移り変わりながら、独自の文化を築き上げてきました。本稿では、トルクメン人の起源から歴史、社会構造、文化、そしてイランに住むトルクメン人（トルキャマーン）について、詳細に解説します。

起源と部族

トルクメン人の起源は諸説あり、明確には解明されていません。テュルク系民族と中央アジアの先住民族との混血によって形成されたとする説が有力です。民族名「トルクメン」の語源も定説がなく、様々な解釈が提示されています。「トルク」はテュルクを指すことは明らかですが、「メン」の意味については、いまだに議論が続いています。

トルクメン人は複数の部族集団から構成されています。主要な部族には、テケ、エルサル、ヨムート、サリク、サリル、ギョクレン、チャウドゥルなどがあり、それぞれが独自の伝統や文化を持っていました。これらの部族は、歴史的に互いに争うこともありましたが、共通の敵に対抗する際には団結して抵抗することもありました。ソ連時代には、部族間の勢力争いが政治にも影響を及ぼしていました。

歴史：遊牧から定住、そして独立へ

トルクメン人の歴史は、遊牧生活から始まります。14～15世紀頃には、カスピ海東岸に居住していたことが確認されています。17世紀以降は、カスピ海沿岸部からコペトダグ山麓やアム川下流域に移住し、半農半牧の生活を送るようになりました。水資源の減少や周辺民族からの圧力などが、この移住の要因と考えられています。

移住の過程で、部族間の抗争は激化し、トルクメン人はブハラ・ハン国、ヒヴァ・ハン国、イランなどに服従と離反を繰り返しました。19世紀半ばからは、ロシア帝国の進出によって圧迫を受け、1880～1881年のギョクデペの戦いなどを経て、ロシア帝国の支配下に入りました。

ロシア革命後、トルクメン人の民族的統一が進み、1924年にはトルクメン・ソビエト社会主義共和国が成立しました。1991年のソ連崩壊後、トルクメニスタンとして独立を果たしましたが、サパルムラト・ニヤゾフ大統領による強権的な支配が続きました。ニヤゾフの後継者であるグルバングル・ベルディムハメドフは、ニヤゾフ体制からの脱却と現代化を推進しています。

文化：言語、宗教、生活、衣服

トルクメン人は、トルクメン語を話します。トルクメン語はオグズ語群に属し、オスマン語やアゼルバイジャン語と比較的近い言語です。口承文芸が盛んで、『ゴルクトゥ・アタ』などの叙事詩が有名です。

宗教はスンナ派イスラム教が主流ですが、シャリーアよりもアダット（慣習法）が重視されます。スーフィズムの影響も強く、聖氏族（オヴラト）と呼ばれる特権的な一族も存在しました。

伝統的な住居はユルト（遊牧民のテント）です。定住生活を送るようになってからも、ユルトは夏季の住居として利用されています。

トルクメン人の伝統的な衣服は、バラク（ズボン）、クイネク（シャツ）、タヒヤ（帽子）、テルペク（羊毛の帽子）、チャパン（マント）などです。女性は、結婚すると頭を覆うようになります。装身具は重要な役割を果たし、富裕層の女性は大量の装身具を身につけていました。

食文化は、羊乳や羊肉が中心です。羊脂は保存料としても利用されてきました。

遺伝子

遺伝子研究によると、トルクメン人にはY染色体ハプログループQが高頻度に見られます。また、ミトコンドリアDNAからは、モンゴロイドとコーカソイドの混血であることが示唆されています。

イランのトルキャマーン

イランに住むトルクメン人は、トルキャマーンと呼ばれます。彼らは、カスピ海東岸からトルクメニスタンの国境にかけての地域に居住し、独自の文化と歴史を持っています。独立運動を起こしたこともありますが、成功には至りませんでした。

結論

トルクメン人は、中央アジアの歴史と文化を深く刻み込んだ民族です。遊牧民としての伝統から、定住生活、そして独立国家の建設へと、その歴史はドラマチックです。多様な部族、独自の文化、そして複雑な歴史を持つトルクメン人の更なる研究が、中央アジアの歴史と文化理解に大きく貢献するでしょう。

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