アイ・コール・ユア・ネーム

アイ・コール・ユア・ネーム：ビートルズの隠れた名曲、その誕生から世界へ

ジョン・レノンがビートルズ結成前に作曲した「アイ・コール・ユア・ネーム (I Call Your Name)」は、数奇な運命を辿り、ビートルズのレパートリーに名を刻むこととなりました。この楽曲は、1963年、ビリー・J・クレイマー＆ザ・ダコタスに提供され、シングル『バッド・トゥ・ミー』のB面として世に出ました。その後、ビートルズ自身によってセルフカバーされ、世界中にその名を知らしめることとなるのです。

レノンの初期衝動と、その背景

レノンは1980年の『プレイボーイ』誌のインタビューで、この曲について「ブルース風なものを目指して作った。ミドルエイトは後から付け加えた。最初の部分はハンブルクに行く前に書いたもので、僕の最初の曲作りだった」と語っています。これは、まだ若き日のレノンが自身の音楽性を模索していた証と言えるでしょう。

ポール・マッカートニーは、この曲がレノンの母親の死と父親の失踪という辛い経験を受けて、叔母のミミの家で書かれたものであると明かしています。マッカートニーは「『名前を呼んでも、そこにあなたはいない』とはどういう意味？彼の母親なのか？父親なのか？僕らはまだ若かったから、レノン自身も何を書いているのか分からなかった。背景までは見えてなかった」と振り返っています。楽曲に込められたレノンの深い感情は、聴く者の心に深く響くものがあります。

ビリー・J・クレイマー＆ザ・ダコタス、そしてビートルズへの提供

1963年7月26日、ビリー・J・クレイマー＆ザ・ダコタスのシングル『バッド・トゥ・ミー』のB面としてリリースされた「アイ・コール・ユア・ネーム」。その後、クレイマーのアルバム『Listen』やベスト盤『EP Collection』にも収録され、徐々に認知度を高めていきました。

しかし、この曲が真に脚光を浴びるきっかけとなったのは、ビートルズによるセルフカバーでした。1964年3月1日、ビートルズは「アイ・コール・ユア・ネーム」のレコーディングを行いました。このレコーディングでは、ジョージ・ハリスンがリッケンバッカー・360/12|リッケンバッカー・360_12で奏でる印象的なギターリフが特徴的です。また、間奏ではビートルズの作品としては初めてスカのリズムが取り入れられ、彼らの音楽的探求心と実験性を示しています。

アルバム収録と様々なバージョン

当初は映画『ハード・デイズ・ナイト』のサウンドトラックへの収録が予定されていましたが、最終的にはボツとなり、アメリカでは『ザ・ビートルズ・セカンド・アルバム』(1964年4月10日発売)、イギリスではEP『のっぽのサリー』(1964年6月19日発売)に収録されました。日本でもEPに収録されたほか、シングル『のっぽのサリー』のB面としても発売されています。その後も『ロックン・ロール・ミュージック』『パスト・マスターズ』など、数々のコンピレーションアルバムに収録され、長年にわたって愛され続けています。

BBCラジオの番組『Saturday Club』用にレコーディングされたバージョンも存在しますが、公式作品には未収録となっています。1990年には、レノンのトリビュートコンサートでリンゴ・スターがトム・ペティらと共にこの曲を歌唱し、改めてこの楽曲の普遍的な魅力を証明しました。

多くのアーティストにカバーされた名曲

「アイ・コール・ユア・ネーム」はビートルズ以外にも多くのアーティストにカバーされています。1966年にはママス＆パパスのアルバム『夢のカリフォルニア』に収録され、キャス・エリオットがレノンへの敬意を込めて「John... John」と囁く独特のバージョンが誕生しました。また、1977年にはザ・ボーイズもアルバム『The Boys』でカバーしています。

このように、「アイ・コール・ユア・ネーム」は、レノンの初期作品でありながら、ビートルズ、そして他の多くのアーティストによって愛され、歌い継がれてきた、普遍的な魅力を持つ楽曲と言えるでしょう。その背景にあるレノンの複雑な感情と、ビートルズによる洗練されたアレンジは、今日でも多くのリスナーを魅了し続けています。

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