ロックン・ロール・ミュージック

ビートルズ『ロックンロール・ミュージック』：幻のロックンロール・アンソロジー

1976年、ビートルズのコンピレーション・アルバム『ロックンロール・ミュージック』がリリースされました。アメリカとイギリスで発売日が数日違いながらも、世界中で注目を集めた本作ですが、現在では公式カタログから姿を消しています。なぜこのアルバムが作られ、そして消えたのか、その謎に迫ってみましょう。

ロックンロールへのオマージュと意外な選曲

このアルバムは、ビートルズが敬愛するロックンロールへのルーツと貢献を明確に示すことを目的として制作されました。そのため、アルバムには「ドライヴ・マイ・カー」や「ゲット・バック」といった彼らの代表曲に加え、他アーティストのカヴァー曲も収録されています。特に注目すべきは、シングル『ヘルプ！』のB面曲としてリリースされ、本作で初めてアルバム収録された「アイム・ダウン」です。ビートルズの伝記作家ケネス・ウォマックもこの選曲を高く評価しています。

アートワークをめぐるメンバーの葛藤

アルバムのアートワークは、銀色の背景にエンボス加工されたビートルズのメンバーの写真を使用。しかし、インナー・スリーブにはコカ・コーラの瓶やマリリン・モンロー、1950年代のアメリカを象徴するアイテムが描かれており、メンバー全員が満足したわけではありませんでした。リンゴ・スターは『ローリングストーン』誌でこのデザインを「ビートルズを安っぽくさせている」と批判。ジョン・レノンも不満を漏らし、自身のハンブルク時代の知人である写真家によるデザイン案を提案するも、レコード会社はそれを却下したと言われています。

ウイングスとのチャート争いとシングルカット

『ロックンロール・ミュージック』のリリースは、ポール・マッカートニー率いるウイングスのアメリカツアー「Wings over America」と重なり、ビートルズのリバイバルブームを後押ししました。全英チャートでは11位、Billboard 200では最高2位を記録するなど高い人気を博しましたが、1位は常にウイングスの『スピード・オブ・サウンド』でした。ビートルズとポールのアルバムがチャートのトップ2を争うのは、1970年以来のことでした。

アルバムからは2枚のシングルがリリースされました。イギリス盤では「ツイスト・アンド・シャウト」がA面、「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」がB面。アメリカ盤は当初「ヘルター・スケルター」がA面、「ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」がB面でしたが、チャールズ・マンソン事件の影響を受けて、A面とB面を入れ替えるという異例の事態が発生しています。アメリカ盤シングルはBillboard Hot 100で7位を記録しました。

消えたアルバム：その理由とは？

『ロックンロール・ミュージック』は、1980年には『ロックンロール・ミュージック Vol.1』と『ロックンロール・ミュージック Vol.2』の2枚組として再リリースされました。ジャケットも1964年のアメリカ初上陸時のイラストに変更されていますが、その後、ビートルズの公式カタログから完全に削除されました。その理由は明確には発表されていませんが、メンバー間の意見の相違や、アートワークに対する批判、そして時代の変化などが影響していると考えられます。

結論

『ロックンロール・ミュージック』は、ビートルズのキャリアにおいて異例なアルバムです。商業的には成功をおさめたものの、様々な要因が重なり、現在では入手困難な幻のアルバムとなっています。このアルバムの背景を知ることで、ビートルズの音楽性や、その後の活動にも新たな視点が加わるのではないでしょうか。

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