アウクシリア

アウクシリア：ローマ軍を支えた多様な補助部隊

アウクシリア（Auxilia）は、古代ローマ帝国において、正規軍団であるレギオを支援するために編成された補助部隊群の総称です。日本語では、支援軍、補助兵、翼軍などと訳されることもあります。その特徴は、騎兵を主力としていた点、そしてローマ市民権を持たない人々や同盟部族によって構成されていた点にあります。

アウクシリアの構成

アウクシリアは、大きく分けて以下の2つのカテゴリーに分類されます。

1. ローマ支配下の非市民による部隊：ローマの支配下にある地域で、ローマ市民権を持たない者、または戦地周辺で徴集された志願兵によって構成された部隊です。
2. 同盟国・同盟部族による部隊：ローマと同盟関係にある国や部族が、自らの兵力を提供して編成された部隊です。

これらの部隊は、レギオとは異なり、多様な兵種で構成されていました。レギオが重装歩兵を主体としていたのに対し、アウクシリアは以下のような兵種を含んでいました。

騎兵隊 (Equites)：アウクシリアの主力であり、重装騎兵が中心でした。偵察、前哨戦、側面攻撃、追撃などを担当し、その機動力を活かして戦場を駆け巡りました。騎兵隊は、以下のような編成で構成されていました。
騎兵中隊（ala）：約300騎
騎兵小隊（turma）：約30騎
騎兵分隊（decurio）：10騎
軽装歩兵 (Velites)：軍団兵の前方に展開し、敵を撹乱する役割を担いました。装備が軽いため、機動力を活かした戦闘が特徴です。
投石兵 (Funditores)：投石器を用いて石を投げ、遠距離から敵を攻撃しました。
弓兵 (Sagittarii)：弓矢を射て、遠距離から敵を攻撃しました。特にシリア人が多く編成されたことで知られています。

同盟部族から提供された騎兵部隊は独立したアウクシリア部隊として活動しましたが、異民族の志願兵などはレギオに付属して活動したと考えられています。ここで言う「騎兵」は、ローマの「騎士」階級（エクィテス）とは異なる点に注意が必要です。

アウクシリアの歴史

アウクシリアの起源は、共和政ローマ時代に遡ります。当初、騎兵はローマと同盟した部族から構成されていましたが、紀元前1世紀のガイウス・マリウスによる軍制改革によって、正式に「アウクシリア」（ラテン語で「助け」を意味する）としてローマ軍に登録されるようになりました。これにより、ローマは広大な領土を維持し、拡大するための戦力を安定的に確保することが可能になりました。

アウクシリアは、主にローマ国境周辺の異民族によって構成され、給与を受け取りながら25年間勤務するのが一般的でした。兵士たちは現地で妻を娶り、家庭を築くこともできました。アウクシリアは、その活動地域で反乱を起こすことを防ぐため、召集された現地から離れた場所で駐屯させられ、レギオの高位の軍人によって指揮されました。

兵役を終えたアウクシリアの兵士には、通常、金銭が与えられましたが、代わりにローマ市民権が付与される場合もありました。市民権は子孫にも受け継がれるため、兵士たちは家族ともどもローマ社会に組み込まれていきました。

アウクシリアの重要性

アウクシリアは、ローマ軍においてレギオを補完し、軍事的な多様性と柔軟性を与える上で非常に重要な役割を果たしました。特に騎兵は、ローマ軍の機動力を大幅に向上させ、戦術の幅を広げました。アウクシリアの存在は、ローマが長期間にわたり広大な領土を維持し、軍事的な成功を収める上で不可欠な要素でした。

関連事項

ローマ軍
ローマ軍団（レギオ）
アラ (ローマ軍)
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