軍団兵

ローマ軍団兵

ローマ軍団兵（レギオーナーリウス）は、ローマ軍団を構成する兵士であり、ローマ帝国の隆盛を支えた重要な存在です。共和政ローマ中期には、ローマ市民は軍団兵としての義務を負い、厳しい訓練と規律の中で鍛えられました。本記事では、軍団兵の編成、軍規、食生活、土木技術、給料、兵装、その他の兵科について解説します。

編成と資格

共和政ローマ中期まで、ローマ市民には軍団兵としての義務があり、25年間、45歳までの兵役が課せられました。退役までの5年間はベテラン軍団兵として優遇され、トリアリイ（後詰の予備部隊）に組み込まれました。軍団兵の資格はローマ市民権を持つ市民に限定され、これは帝政ローマになっても変わりませんでした。

軍規

軍団兵は厳しい規律のもとで鍛えられました。「訓練は血の出ない戦闘」と呼ばれるほど訓練は厳しく、武器での模擬戦闘や重装備・密集した戦列での演習が絶え間なく行われました。当時の戦いは重装歩兵による白兵戦が中心であり、厳格な規律による集団としての統率と兵士間の連帯が重要でした。

規律違反には厳しい処罰が科せられ、最大の刑罰は死刑でした。死刑は当事者だけでなく、同じ部隊の兵士からくじで選ばれた者も共に処刑されるという過酷なものでした。

一方で、私生活に関しては柔軟な対応がなされていました。公式には兵役中の妻帯は禁止されていましたが、実際には居留地で妻を娶り、除隊後故郷に妻子を連れて帰ることが黙認されていました。

食事

ローマ人の食生活では海産物はよく食べられましたが、肉はほとんど食べませんでした。軍団兵が遠征に携行する食料は、小麦粉、固く焼いたパン、干し魚、たまねぎ、イチジク、チーズ、牛乳、オリーブオイル、塩、水、葡萄酒などでした。肉は「食べものが無くなったから仕方なく食べる」程度だったという説が有力でしたが、近年の発掘調査では調理された大量の獣骨が見つかっており、時代が下るにつれて肉食の文化が普及していったと考えられています。

軍規違反などの際には、大麦を食べさせられる罰を受けることがありました。大麦は軍馬の飼料とされており、軍団兵にとって屈辱的な罰でした。

土木技術

ローマ軍団兵は優れた土木技術を持っていました。軍団基地に駐屯しているときは、訓練だけでなくローマ街道の敷設・補修工事を常に行っていました。ガリア人が見守る前で森から木を切り出し、数時間で攻城兵器を建造したり、3日でライン河に木造の橋を架けてゲルマン人を奇襲したりしました。全ての作業はマニュアル化され、システマチックに遂行されました。

1日の野営地でも整然と区画を設定し、排水溝を備えた通路を敷き、柵で囲った陣形を構築しました。建設した街道や水道橋には現在でも使用されているものがあります。軍団兵が建築した石橋は現在でもヨーロッパ各地に残っており、2千年が過ぎた現在でも人や車が渡ることができます。

都市計画にも長けており、ウィーン、マンチェスター、ランカスターなどのヨーロッパの主要都市は軍団の駐屯地を起源としています。

給料

共和制初期、国家の危機に際して軍団に参ずるのは、一定以上の資産を持つローマ市民の義務でした。紀元前4世紀頃から、軍団兵には日給が支払われるようになりました。マリウスの軍制改革以降、軍団兵は年給を受け取る職業軍人となりました。年給は何度か引き上げられ、大規模な戦闘に勝利した際には報奨金も支給されました。

退職金や植民都市への移住の自由など、兵役を務めた者に対しては十分な計らいがされていました。除隊・退役後も自発的に登録し、必要に応じて軍務に戻る者は厚遇されました。

兵装

軍団兵の兵装は以下の通りです。

鎧（ロリカ）：時代によって板金で作られたロリカ・セグメンタタや、鎖を編んで作ったロリカ・ハマタなどがありました。
盾（スクトゥム）：長方形または楕円形の大型の盾
兜（ガレア）：青銅製、のちに鉄製の兜
軍靴（カリガエ）：革製のサンダル
槍：初期には長槍ハスタと投槍ピルムの2種類がありましたが、後にピルムのみになりました。
剣（グラディウス）：当初はスパタと呼ばれる長い剣を使っていましたが、後にヒスパニアの原住民が使っていた短剣グラディウス・ヒスパニエンシスが採用されました。
* ダガー（プギオ）：両刃の短剣

遠征には、食料、水、調理器具、野営地の柵、シャベル、カゴなどが入った荷袋（サルキナ）を担いでいました。

その他の兵科

ローマ軍団兵は基本的に重装歩兵として戦闘に加わったため、それ以外の兵科は属州民や同盟国の兵士に任せていました。彼らは「アウクシリア（支援軍、補助兵）」と呼ばれ、軽装歩兵や騎兵として後方支援を任務としていました。

ローマ軍団には騎兵も存在しました。騎兵は富裕なローマ市民が務めることが多く、「エクィテス（騎士階級）」と呼ばれていました。また、ごく一部には医療・土木専門などの技術者も従軍していました。

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