アウンジー
アウンジー（1919年2月16日生まれ - 2012年10月25日没）は、ビルマ（現ミャンマー）の軍人、政治家です。彼は国民民主連盟（NLD）の共同創設者として知られ、結党時には議長を務めました。
1919年にバゴー地方域パウンデ郡区で生まれたアウンジーは、中国系ミャンマー人として育ちました。若くして政治に関心を抱き、1937年には民族主義団体であるわれらビルマ人連盟（タキン党）に参加しています。1948年にビルマが独立し、国軍が創設されると、アウンジーはネ・ウィン率いる第4ビルマ・ライフル部隊に所属しました。この部隊は、後のビルマ軍において重要な役割を担う多くの人材を輩出しています。
その後、アウンジーは軍内部で順調に昇進を重ね、1953年には参謀本部第1作戦参謀、1956年には陸軍参謀次長に就任しました。この時期には、国軍内ではネ・ウィンに次ぐ実力者と目されるようになり、マウンマウンと共に国軍改革において中心的な役割を果たしました。短期間ですが、ビルマ社会党に所属し、国会議員を務めた経験もあります。
1958年、北部軍管区司令部がクーデターを計画した際には、アウンジーはマウンマウンと共にウー・ヌ首相とネ・ウィンの間で調整役となり、平和的な政権移譲を促しました。
しかし、1962年にネ・ウィン自身がクーデターを決行し、ビルマ連邦革命評議会による軍事独裁政権が樹立されると、アウンジーの立場は微妙なものとなります。このクーデターに関しては、アウンジーが計画の詳細を知らされていなかったとする見方がある一方、クーデターに至る国内情勢の不安定化や軍の介入の可能性について、事前に認識していたことを示唆する発言も残されています。革命評議会の一員となったアウンジーは、ビルマ経済開発公社（BEDC）総裁や貿易産業大臣を兼任しました。
しかし、1963年2月には「同僚と政策について意見の相違が見られたため」として、すべての役職からの辞任が発表され、失脚します。失脚の背景には、ネ・ウィンが進めようとしていた急進的な社会主義化や国有化路線に対し、彼がより穏健で市場経済寄りの政策を志向していたことによる対立があったと伝えられています。アウンジーは、政党の禁止に反対し、健全な政党活動や民主主義政府の維持を主張し、輸入業の即時国有化や外資導入による重工業振興などを提唱していました。
失脚後、アウンジーは1965年から1968年、そして1973年から1974年の二度にわたり投獄されました。しかし、ネ・ウィン個人や国軍に対する忠誠心は揺るがなかったとされています。釈放後はヤンゴンで喫茶店を経営し、政府系のルートから食材を安価に入手できたことなどから店は繁盛し、経済的に恵まれた生活を送っていたと言われています。
1988年に発生した8888民主化運動の際、同年3月に国軍が市民を虐殺した事件について、アウンジーが批判的な内容を記した書簡が出回りました。この「アウンジー書簡」は、全国的な反政府デモが拡大する一因となったとも言われています。
一連の動きの中で、アウンジーはアウンサンスーチーやティンウー、ウー・ヌといった民主化勢力の有力者たちと共に、次期指導者候補の一人として名前が挙がりました。しかし、彼がネ・ウィンや国軍に対して強い忠誠心を抱き続けていたことは広く知られており、それが一部市民の間に冷めた見方を招き、十分に支持を得られなかった側面もあります。特に、大規模デモへの軍の弾圧があった際には、「国軍を怒らせてはならない」と発言し、市民の間に波紋を広げました。
民主化運動の流れの中で国民民主連盟（NLD）が結成されると、アウンジーは初代議長に就任しました。しかし、NLDを「共産主義者に指導されている」と批判し、すぐに離党して連邦国民民主党（UNDP）を結党します。1990年に実施された総選挙では、UNDPは1議席を獲得するにとどまり、アウンジー自身も落選しました。
1989年にビルマ共産党（CPB）が分裂した際、当時の軍事政権である国家法秩序回復評議会（SLORC）は、アウンジーを含む複数の人物に仲介を依頼し、分裂した武装勢力との間で停戦合意を結びました。
その後、再びビジネスを手がけていたアウンジーですが、1993年には自身が経営するパン屋への納品に関する件で懲役6ヶ月の判決を受けます。この判決は、表面的な理由とは別に、彼の政府に対する批判的な言動が真の理由であったとも指摘されています。
1998年に訪米した際には、ラジオ・フリー・アジア（RFA）のインタビューに応じ、国の経済状況の悪化や国民の不満、国軍への信頼失墜といった現状を批判的に語りました。一方で、民主化運動を主導するアウンサンスーチーの活動について批判的な見解を示し、さらに、ヤンゴンを発つ前にネ・ウィンとその娘に手紙を送り、「国が崩壊しないためには、あなたの父上が再び国を率いなければならない」と述べるなど、ネ・ウィンへの変わらぬ複雑な感情と期待を表明しています。
ネ・ウィンが2002年12月に死去した際には、数少ない葬儀の参列者の一人となりました。この時初めて、公の場で「彼の人生の最後が不名誉なものだったことを残念に思います」「国に起こったことの責任は彼にあります」と、ネ・ウィンに対する批判的な言葉を口にしました。
2012年10月25日、心臓麻痺のため93歳で死去しました。
生い立ちと軍歴
1919年にバゴー地方域パウンデ郡区で生まれたアウンジーは、中国系ミャンマー人として育ちました。若くして政治に関心を抱き、1937年には民族主義団体であるわれらビルマ人連盟（タキン党）に参加しています。1948年にビルマが独立し、国軍が創設されると、アウンジーはネ・ウィン率いる第4ビルマ・ライフル部隊に所属しました。この部隊は、後のビルマ軍において重要な役割を担う多くの人材を輩出しています。
その後、アウンジーは軍内部で順調に昇進を重ね、1953年には参謀本部第1作戦参謀、1956年には陸軍参謀次長に就任しました。この時期には、国軍内ではネ・ウィンに次ぐ実力者と目されるようになり、マウンマウンと共に国軍改革において中心的な役割を果たしました。短期間ですが、ビルマ社会党に所属し、国会議員を務めた経験もあります。
1962年のクーデターと失脚
1958年、北部軍管区司令部がクーデターを計画した際には、アウンジーはマウンマウンと共にウー・ヌ首相とネ・ウィンの間で調整役となり、平和的な政権移譲を促しました。
しかし、1962年にネ・ウィン自身がクーデターを決行し、ビルマ連邦革命評議会による軍事独裁政権が樹立されると、アウンジーの立場は微妙なものとなります。このクーデターに関しては、アウンジーが計画の詳細を知らされていなかったとする見方がある一方、クーデターに至る国内情勢の不安定化や軍の介入の可能性について、事前に認識していたことを示唆する発言も残されています。革命評議会の一員となったアウンジーは、ビルマ経済開発公社（BEDC）総裁や貿易産業大臣を兼任しました。
しかし、1963年2月には「同僚と政策について意見の相違が見られたため」として、すべての役職からの辞任が発表され、失脚します。失脚の背景には、ネ・ウィンが進めようとしていた急進的な社会主義化や国有化路線に対し、彼がより穏健で市場経済寄りの政策を志向していたことによる対立があったと伝えられています。アウンジーは、政党の禁止に反対し、健全な政党活動や民主主義政府の維持を主張し、輸入業の即時国有化や外資導入による重工業振興などを提唱していました。
失脚後、アウンジーは1965年から1968年、そして1973年から1974年の二度にわたり投獄されました。しかし、ネ・ウィン個人や国軍に対する忠誠心は揺るがなかったとされています。釈放後はヤンゴンで喫茶店を経営し、政府系のルートから食材を安価に入手できたことなどから店は繁盛し、経済的に恵まれた生活を送っていたと言われています。
8888民主化運動とNLD
1988年に発生した8888民主化運動の際、同年3月に国軍が市民を虐殺した事件について、アウンジーが批判的な内容を記した書簡が出回りました。この「アウンジー書簡」は、全国的な反政府デモが拡大する一因となったとも言われています。
一連の動きの中で、アウンジーはアウンサンスーチーやティンウー、ウー・ヌといった民主化勢力の有力者たちと共に、次期指導者候補の一人として名前が挙がりました。しかし、彼がネ・ウィンや国軍に対して強い忠誠心を抱き続けていたことは広く知られており、それが一部市民の間に冷めた見方を招き、十分に支持を得られなかった側面もあります。特に、大規模デモへの軍の弾圧があった際には、「国軍を怒らせてはならない」と発言し、市民の間に波紋を広げました。
民主化運動の流れの中で国民民主連盟（NLD）が結成されると、アウンジーは初代議長に就任しました。しかし、NLDを「共産主義者に指導されている」と批判し、すぐに離党して連邦国民民主党（UNDP）を結党します。1990年に実施された総選挙では、UNDPは1議席を獲得するにとどまり、アウンジー自身も落選しました。
その後の活動と晩年
1989年にビルマ共産党（CPB）が分裂した際、当時の軍事政権である国家法秩序回復評議会（SLORC）は、アウンジーを含む複数の人物に仲介を依頼し、分裂した武装勢力との間で停戦合意を結びました。
その後、再びビジネスを手がけていたアウンジーですが、1993年には自身が経営するパン屋への納品に関する件で懲役6ヶ月の判決を受けます。この判決は、表面的な理由とは別に、彼の政府に対する批判的な言動が真の理由であったとも指摘されています。
1998年に訪米した際には、ラジオ・フリー・アジア（RFA）のインタビューに応じ、国の経済状況の悪化や国民の不満、国軍への信頼失墜といった現状を批判的に語りました。一方で、民主化運動を主導するアウンサンスーチーの活動について批判的な見解を示し、さらに、ヤンゴンを発つ前にネ・ウィンとその娘に手紙を送り、「国が崩壊しないためには、あなたの父上が再び国を率いなければならない」と述べるなど、ネ・ウィンへの変わらぬ複雑な感情と期待を表明しています。
ネ・ウィンが2002年12月に死去した際には、数少ない葬儀の参列者の一人となりました。この時初めて、公の場で「彼の人生の最後が不名誉なものだったことを残念に思います」「国に起こったことの責任は彼にあります」と、ネ・ウィンに対する批判的な言葉を口にしました。
2012年10月25日、心臓麻痺のため93歳で死去しました。
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