アエリア・カピトリナ

アエリア・カピトリナとは

アエリア・カピトリナ（Aelia Capitolina）は、ローマ皇帝ハドリアヌスが、ユダヤ属州におけるバル・コクバの乱鎮圧後に、ユダヤ教の痕跡を一掃しローマ文化を植え付ける目的でエルサレムを再建した際に与えた新しい都市名です。この名称はハドリアヌスの家名「アエリウス」と、ローマの主神が祀られるカピトリヌスの丘に由来します。この都市の変遷を理解するには、エルサレムの歴史を遡る必要があります。

エルサレムの歴史

紀元前1000年頃、エルサレムはダビデ王によってイスラエル王国の首都とされ、ソロモン王により神殿が建立されて以来、ユダヤ民族の宗教、政治、経済、文化の中心地でした。しかし、王国の分裂やアッシリア、新バビロニアによる侵略により国家は滅亡。その後もアケメネス朝、アレクサンドロス大王など、様々な外来勢力の支配を受けました。

紀元前142年、ハスモン朝として再びユダヤ国家が成立し、かつてのダビデ王時代の版図を回復するほど繁栄しますが、紀元前1世紀中頃にはローマの介入を受け、傀儡と化します。混乱の中で台頭したイドマヤ人のヘロデは、ローマの後援を得てヘロデ朝を建国し、ユダヤの王として君臨しました。ヘロデの死後、ユダヤはローマ属州となり、この頃にナザレのイエスが活動を開始しました。イエスの教えはキリスト教として独立・発展していきます。

ユダヤ戦争

ユダヤ人は、ローマの支配に抵抗し続けました。歴代の属州総督による圧政に対し不満が高まり、66年にはユダヤ戦争が勃発しました。当初、ユダヤ側はエルサレムを占拠しましたが、ローマの鎮圧軍によって各個撃破され、70年にはエルサレムが陥落。神殿は破壊され、市街も焦土と化しました。74年には最後の拠点であったマサダ要塞も陥落し、ユダヤ戦争は終結しました。

ハドリアヌスの治世

ユダヤ戦争後、エルサレムは荒廃し、ローマ軍が駐留するのみでした。ユダヤ教徒とキリスト教徒が完全に決別する中、ユダヤ人の間では反ローマ感情が高まり続けました。トラヤヌス帝の死後、ハドリアヌス帝が即位し、ユダヤ人に対し当初は穏健な政策を執り、エルサレム神殿の再建を約束しましたが、後にユダヤ人の伝統を否定する政策へと転換します。

ハドリアヌスは、「エルサレムの再建」を名目に、ユダヤ教の神殿の跡地にローマ神ユピテルの神殿を築き、都市名を「アエリア・カピトリナ」と改名しました。また、ユダヤ教の割礼を禁止するなど、ユダヤ教に対する徹底的な弾圧策を実行しました。これらの政策はユダヤ人の反感を買い、132年にはバル・コクバの乱が勃発しました。

バル・コクバの乱

バル・コクバの乱は、ユダヤ人のメシア（救世主）とみなされたバル・コクバが、ユダヤ人を率いてローマに反乱を起こした戦いです。反乱軍はエルサレムを占領しますが、ローマ軍の反撃により、135年には鎮圧されました。反乱後、ローマはユダヤ人に対する弾圧をさらに強化し、エルサレムへの立ち入りを禁じました。

アエリア・カピトリナの建設

アエリア・カピトリナは、ローマ様式の都市として再建されました。神殿の丘にはユピテルの像が建てられ、街にはカルドと呼ばれる列柱のある大通りが敷設されました。公共浴場、給水施設、劇場なども建設され、ローマ文化が色濃く反映された都市となりました。しかし、この間もユダヤ人は迫害され続け、ユダヤ教の祭礼、安息日の遵守、律法の学習が禁じられました。

再びエルサレムへ

4世紀になると、コンスタンティヌス帝がキリスト教を公認し、アエリア・カピトリナはビザンツ帝国の植民都市となります。コンスタンティヌス帝の母ヘレナの巡礼をきっかけに、この地はキリスト教の聖地となり、「エルサレム」の名を取り戻しました。その後、ユリアヌス帝が一時的に神殿再建を許可しましたが、頓挫しました。エルサレムは再びキリスト教の聖地として発展し、ユダヤ人との複雑な歴史を抱えながら、現在に至っています。

アエリア・カピトリナは、単なるローマの植民都市ではなく、ユダヤ民族の歴史と宗教、そしてローマ帝国の支配が交錯した象徴的な場所です。その変遷は、エルサレムという都市の持つ多面性と複雑さを物語っています。

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