アカパンカビ

アカパンカビについて

アカパンカビ（学名：Neurospora crassa）は、子嚢菌門に属する糸状菌であり、特に遺伝学の研究において重要なモデル生物として知られています。主に冷涼な環境で見られるこの菌は、一般的に「赤いパンカビ」として知られ、その名は分生子の特徴的な赤色に由来しています。

特徴

アカパンカビは、小さな球状の子実体を形成する子嚢菌の一種です。長い間、子嚢菌門のタマカビ目に分類されていましたが、最近の分子系統解析により、フンタマカビ目フンタマカビ科に再分類されました。このカビの分生子は、一般的に分節型であり、成長した際に気中に伸びた枝分かれした菌糸から楕円形の分生子が連なる形が見られます。特に寒天培地上では、その成長速度が非常に早く、直径10 cmのシャーレが一日で埋まることがしばしばあります。

アカパンカビは、自家不和合性を持ち、特定の菌株同士が相互作用することで有性生殖を行い、子実体を形成します。これらの子実体はほぼ球形で黒色、頂部がやや突出した壷状をしており、内部には細長い子嚢が束になって存在し、各子嚢の中には8個の子嚢胞子が含まれています。

利用法

このカビは、その簡単に人工培養できる特性により、遺伝学の研究で広く用いられています。具体的には、以下のような理由からです：

1. 培養の簡単さ：アカパンカビの栄養要求は非常に単純で、特別な環境を必要としません。
2. 特性の解析：子嚢が細長く整列しているため、遺伝子型の異なる胞子を特定しやすく、選択的に取り出すことが可能です。
3. 突発的な変異の誘発：分生子にX線を照射することで迅速に突然変異を誘発することができ、その結果として生じる変異株の研究が進められています。

特に、一遺伝子一酵素説を支持する重要な基礎研究がこのカビによって行われたことは有名であり、最初にゲノム配列が解読された糸状菌でもあります。

成長の特性と問題点

アカパンカビの分生子は空気中に容易に飛散し、非常に早く成長します。この性質が微生物培養において問題視されることがあります。望まれない場合に菌が侵入すると、瞬時に培地に広がり、迅速に分生子を散布するため、その出現は厄介なものとなります。これは、特にパン製造過程において、多くの問題を引き起こす要因です。

その他

アカパンカビは欧州では非常に一般的に見られるカビです。その速い成長と分生子形成は、時には一夜でパン全体を染め上げる結果をもたらすことがあります。また、子嚢胞子は熱を受けると発芽しやすく、特に焚き火の後に頻繁に見られます。日本ではあまり一般的ではないものの、高湿度の時期には出現することがあります。山火事や野火跡に適応した生活形態を持つことから、これらの環境が影響しているのではないかという考え方も存在します。

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