アガティアス

アガティアス・スコラスティコス：6世紀東ローマ帝国の詩人にして歴史家

アガティアス・スコラスティコス（Ἀγαθίας σχολαστικός, Agathias Scholasticus, 約530年 - 約582年）は、小アジアのミュリナ出身の東ローマ帝国の詩人であり歴史家です。ユスティニアヌス1世の治世下で活躍し、その時代の歴史を詳細に記録したことで知られています。

生涯

アガティアスは、ミュリナで修辞学者であった父メムノニオスと、ペリクレイア（推定）の間に生まれました。兄弟姉妹もおり、少なくとも一人の姉妹エウゲニアが知られています。彼はアレクサンドリアで法学を学びましたが、ベイルートの大地震によってシドンに移転を余儀なくされています。その後コンスタンティノープルへ移り、法廷で弁護士（アドボカタス、スコラスティコス）として活動しました。スミュルナでは事実上の行政官を務め、公衆便所の建設にも携わったとされています。アガティアスは詩作にも熱心で、ヘタイラ（高級娼婦）の墓参りをしたことを記録するなど、私生活の一端も垣間見えます。没年は582年以前と推定されていますが、確実な記録はありません。

作品

アガティアスは詩人として高く評価され、『デフニアカ (Δαφνιακά, Daphniaca)』と呼ばれる9巻からなる恋をテーマにしたヘクサメトロスの詩集を著しました。現在、序文のみが現存しています。また、100以上のエピグラム（警句）を編纂し、『新警句全集 (Κύκλος των νέων επιγραμμάτων)』として発表しています。これらの詩は『ギリシア詞華集』に収録されており、その優雅な表現は高く評価されています。

アガティアスの最も重要な作品は、ユスティニアヌス1世の治世（527年-565年）の後半、552年から558年までの出来事を記録した『ユスティニアヌス帝の治世について (Περί της Ιουστινιανού βασιλείας)』、通称『歴史』です。この著作は、プロコピオスの歴史記述を継承しつつ、独自の視点からゴート戦争を始めとする当時の出来事を詳細に描いています。残念ながら未完成であり、当初の構想ではユスティヌス2世の治世やフン族の衰退まで記述する予定だったと推測されます。アガティアスの死後、保護者メナンドロスが歴史を582年まで書き継いでいます。

歴史家としての評価

アガティアスの『歴史』は、6世紀東ローマ帝国の歴史を理解する上で貴重な一次史料となっています。しかし、その歴史家としての評価は一定ではありません。正確な情報収集と客観的な記述を心がけていた一方で、判断力や知識不足を指摘する声もあります。また、キリスト教信仰の深さについても議論の的となっています。

アガティアスは、529年にユスティニアヌス1世によって閉鎖されたアテナイのアカデメイアについて記述した、唯一の信頼できる情報源としても注目されています。彼の『歴史』には、イスラム教化以前のイランに関する記述も含まれており、後世の史料に影響を与えています。さらに、アガティアスはバックギャモンのルールに関する最古の記録を残していることでも知られています。

『歴史』の版と翻訳

アガティアスの『歴史』は、様々な言語に翻訳され、多数の版が出版されています。初期の版としては、ボナヴェントゥラ・ヴルカニウス（1594年）、バルトホルト・ゲオルク・ニーブール（1828年）などがあります。現代においても、様々な言語で翻訳・出版が継続されており、多くの研究者の注目を集め続けています。

参考文献

アガティアスに関する研究は数多く存在し、彼の生涯、作品、歴史家としての評価について、多角的な視点からの考察がなされています。彼の著作は、6世紀東ローマ帝国の歴史研究に不可欠な史料であり、今後も多くの研究者によって解明が続けられるでしょう。

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