アクセプタンス

アクセプタンス（受容）とは

アクセプタンス（Acceptance）、日本語では受容とは、人間心理学において、人が置かれた現実の状況に対し、変化や抵抗を試みることなく、その過程や状況を理解しようとする姿勢を指します。多くの場合、ネガティブで不快な状況に対する心構えとして現れます。この概念は、ラテン語の 'acquiēscere' に由来する「黙諾」と近い意味を持ちます。

様々な分野におけるアクセプタンス

アクセプタンスは、様々な信仰や瞑想の世界で重要な概念とされています。仏教では「全ての生は苦である」という真理を受容することを説き、人生の本質的な不満足を受け入れるように促しています。また、ユダヤ教のカバラという言葉も、アクセプタンスと同意を意味しています。

社会的な側面では、マイノリティ集団（LGBTなど）が、マジョリティ側から社会的排除を受けない社会において、自分たちの目標を「受容」と表現することが多くあります。一方、マジョリティがマイノリティの社会参加を特定の分野に限定するような場合は、「許容」と表現されることはあっても、真の「受容」とは言えないでしょう。

自己受容

自己受容（Self-acceptance）とは、現在の自分自身を愛し、満足することです。それは、今の自分を評価し、検証し、受け入れ、サポートすることを、自分自身と合意することです。例えば、現在住んでいる家に対して、たとえ理想とは違うと感じていたとしても、その家にも利点を見出し、満足することができます。そして、将来の夢として、より良い住まいを思い描くこともできます。

自己受容は、現実との闘いを乗り越えることで、新たな可能性を生み出し、新しい人生を切り開く原動力となります。モチベーションの欠如から自己受容を困難に感じる人もいますが、それは誤解です。自己受容は、現状に甘んじることではなく、むしろ不満な点を積極的に変えるための出発点となります。

社会的受容

社会におけるアクセプタンスは、他者への理解や共感につながります。多様性を尊重し、異なる価値観を受け入れることは、より寛容な社会を築く上で不可欠です。これは、単に違いを認めるだけでなく、その違いを尊重し、共生することを目指すものです。

臨床におけるアクセプタンス

キューブラー＝ロスモデル（死に至る段階）では、アクセプタンスは第5の最終段階とされています。また、アルコホーリクス・アノニマス（AA）の書籍では、アルコール依存症の治療において、患者が「神の世界では間違いなどは何も起こらない」こと、そして自分の状況が「神に与えられたものである」ことを受容することが重要だと述べています。

信念におけるアクセプタンス

アクセプタンスは、多くのアブラハムの宗教で教義の中核をなしています。イスラームという言葉は、アクセプタンス、降伏、自発的受け入れなどと訳され、キリスト教でもイエスを救世主として受け入れることが重要です。仏教でも、サティやマインドフルネスといった概念が、アクセプタンスに通じるものを持っています。

宗教や精神療法においては、状況が苦痛でありながら変更不可能、あるいは変更に大きなリスクやコストがかかる場合、アクセプタンスがしばしば推奨されます。アクセプタンスは、状況を変えようとする行動的な試みを諦めるだけでなく、感じ方や考え方、感情状態など、内面的な側面にも適用されます。

キリスト教では、出来事が道徳的や正義にかなっているかどうかを同意することなく、現実を受け入れることが求められます。イスラム教においても、アッラーを高位の存在として受け入れる点において、キリスト教と共通点があります。ユダヤ教では、613のミツワー（戒律）を通して、充実した人生を送るための手法が示されています。

信念とアクセプタンスは密接に結びついていますが、その形態は多様です。アクセプタンスは、人生設計や目標を立てる上で重要な要素であり、生き残るためだけでなく、人間関係を円滑にするためにも活用されます。他者から受け入れられることは、個人の自尊心や幸福に大きな影響を与えることが示されています。

アクセプタンスの重要性

アクセプタンスは、困難な状況に立ち向かうための重要な心理的メカニズムです。自己受容は、自己肯定感を高め、精神的な安定をもたらします。また、他者を受け入れることは、より包括的で寛容な社会を形成する上で不可欠です。アクセプタンスは、個人と社会の両方にとって、健全な成長と発展に不可欠な要素と言えるでしょう。

関連概念

アクセプタンス&コミットメント・セラピー
マインドフルネスストレス低減法
認知の歪み
寛容

外部リンク

Art of Accepting
Acceptance and Commitment Therapy

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