アグテレク・カルストとスロバキア・カルストの洞窟群

アグテレク・カルストとスロバキア・カルストの洞窟群は、ハンガリーとスロバキアの国境を跨ぐカルスト地形と、そこに点在する700以上の鍾乳洞からなる世界遺産です。この地域は、地質学的に貴重なカルスト地形と、生物多様性に富んだ自然環境が評価され、ユネスコの世界遺産に登録されました。

アグテレク・カルスト

ハンガリー北部に位置するアグテレク地方には、アグテレク国立公園が広がっています。1985年に設立されたこの公園は、約199平方キロメートルの面積を有し、カルスト地形の景観を保護しています。特に、ヨーロッパ最大級の鍾乳洞であるバラドラ洞窟は、全長26キロメートルにも及び、そのうち8キロメートルはスロバキア国内にドミツァ洞窟として続いています。

バラドラ洞窟

バラドラ洞窟は複雑に入り組んだ構造を持ち、その特徴的な形状から「コンサートの広間」など、様々な異名で呼ばれています。特に「コンサートの広間」は、洞窟内の優れた音響効果を利用し、夏にはオペラやオーケストラの演奏会が開催される場所として知られています。

スロバキア・カルスト

スロバキア南部には、カルパチア山脈の一部をなすスロバキア・カルストが広がっています。この地域は、1973年以降は景観保護地域として、2002年からは国立公園として保護されています。また、ユネスコの生物圏保護区にも指定されており、アグテレク・カルストとともに世界遺産に登録されています。

スロバキア・カルストの特色

スロバキア・カルストの最高峰は、標高947メートルのJelení vrchです。この地域は、シャイオ川、シュティートニック川、トゥルニャ川などの河川によって形成されており、四季がはっきりとした大陸性の気候に属しています。地質は、中生代の石灰岩やドロマイト（白雲岩）が主体で、その下には砂岩や粘板岩の地層が広がっています。
植生は、平原にはオークやシデの森林、丘にはオーク林、窪地にはトウヒ林が広がっており、北部にはブナ林も見られます。

特徴的な地形と洞窟

この地域には、直径250メートル以上、深さ45メートルに達するドリーネ（陥没穴）や、円錐形の丘、地下に水が流れ込む渓谷など、多様なカルスト地形が見られます。また、深さ100メートルを超える垂直な縦穴も多く、その中には「悪魔の穴」、「小さな鉄の淵」、「イノシシの淵」など、特徴的な名前が付けられたものもあります。

鍾乳洞も豊富で、バラドラ洞窟と繋がるドミツァ洞窟のほか、オフティンスカー・アラゴナイト洞窟、ゴンバセック洞窟、ヤソフ洞窟などが公開されています。さらに、クラースノホルスカー洞窟やフルショーフ洞窟も特筆すべき洞窟です。また、カルスト湖として知られるヤシュテリチエ湖（トカゲの湖）も存在します。

生物多様性

スロバキア・カルストは、1977年にユネスコの生物圏保護区に指定され、豊かな動植物が生息しています。オーク・シデ林、オーク混合林、好熱性オーク林、ブナ林など多様な植生が見られ、セイヨウシデ、フユナラ、ヨーロッパブナ、セイヨウトネリコなどの樹木が生育しています。また、エリトロニウム・デンスカニスやオノスマ・トルネンシスなど、希少な植物も存在します。動物では、カタシロワシやチュウヒワシ、ヒメチョウゲンボウなどが生息しています。

ラムサール条約

2001年には、ドミツァ洞窟がラムサール条約登録地にもなりました。この地域に点在する洞窟には、500種以上の真洞窟性生物と好洞窟性生物が生息しているとされています。

世界遺産登録基準

この世界遺産は、以下の基準を満たし、登録されました。

* (8) 地球の歴史上の主要な段階を示す顕著な見本であるもの。これには生物の記録、地形の発達における重要な地学的進行過程、重要な地形的特性、自然地理的特性などが含まれる。

登録対象

1995年には、バラドラ＝ドミツァ洞窟を含む22の洞窟が登録され、2000年にはスロバキア側のドブシンスカ氷穴が追加登録されました。

この世界遺産は、その壮大なカルスト地形と、多様な生物が生息する洞窟群が織りなす、他に類を見ない自然の宝庫です。

もう一度検索