アシオス (ギリシア神話)

アシオスという名は、古代ギリシアの物語、特にホメロスの叙事詩『イリアス』において複数の人物に用いられています。中でも特によく知られているのは、トロイア戦争でトロイア側として戦った二人の人物、すなわちヒュルタコスの子アシオスと、プリュギア王デュマースの子アシオスです。

ヒュルタコスの子アシオス

彼はヒュルタコスを父とし、トロイア王プリアモスの前妻であるアリスベーを母として生まれました。アダマースとパイノプスという息子がいたと伝えられています。

トロイア戦争が開戦すると、このアシオスはペルコーテー、セストス、アビュドス、そしてアリスベーといった地域から集められた兵を率いて、トロイアを救援するために駆けつけ、ギリシア軍と激しい戦いを繰り広げました。

アシオスは並外れた巨体を誇る屈強な戦士であり、戦場では特に赤毛の立派な馬に引かせた自らの戦車を駆って戦いました。トロイア軍の指揮官であるポリュダマース（またはポリュダマース）が、ギリシア軍によって築かれた強固な防壁を攻略するにあたり、戦車を降りて徒歩で攻撃すべきだと提案した際、アシオスはデーイポボス、ヘレノスと共に第三部隊の指揮官の一人を務めていました。

しかし、アシオスはポリュダマースの戦術変更には同意せず、戦車を降りて歩兵として戦うことを拒否しました。その代わりに、自らの部隊を率いて、ギリシア兵が撤退時に利用するために開けられていた防壁の左翼の門へ、戦車に乗ったまま強行突入することを試みました。ですが、その門を勇敢に守っていたギリシアの英雄、ポリュポイテースとレオンテウスの圧倒的な抵抗に遭い、アシオスの突撃は阻まれ、門を突破することは叶いませんでした。

後にサルペードーンやヘクトールといったトロイア軍の主力部隊が奮戦し、ギリシア軍の防壁内部への突入に成功し、戦線が大きく動く中で、アシオスはイードメネウスに討たれて倒れたオトリュオネウスを助けようと駆けつけました。しかし、クレータの王イードメネウスは、アシオスの攻撃よりも素早く槍を投げ、見事彼を討ち取りました。さらに、ギリシアの戦士アンティロコスは、アシオスの御者を討ち取り、彼の自慢の赤毛の馬を戦利品として奪い去ったと伝えられています。

デュマースの子アシオス

彼はプリュギアの王デュマースの息子であり、トロイア王プリアモスの妻でありヘクトールの母であるヘカベーとは兄弟の関係にあたります。彼はプリュギア国内のサンガリオス河のほとりに居を構えていました。

トロイア戦争が勃発した際には、プリュギアから自らの軍勢を率いてトロイアを救援するために遠路駆けつけ、ギリシア軍と戦いました。

ホメロスの『イリアス』において、このデュマースの子アシオスは、ある重要な場面で神の化身として登場します。アキレウスの鎧を身に纏って戦場に出たパトロクロスに対し、トロイア軍の総大将ヘクトールは、戦いを続けるか城内に退却するか判断に迷っていました。その時、光明神アポローンはデュマースの子アシオスの姿に変身し、ヘクトールの前に現れて、パトロクロスと戦うようにと力強く励ましの言葉を与えました。

アポローンがアシオスとして与えたこの助言に促され、ヘクトールはパトロクロスと対峙しました。パトロクロスがエウポルボスの攻撃によって深手を負った隙を捉え、ヘクトールは彼を討ち取ることに成功します。このように、アシオス（の姿を借りたアポローン）の介入は、トロイア戦争における最も重要な出来事の一つであるパトロクロスの死に繋がる決定的な要因となりました。

また、このアシオスについては、ギリシア側の屈強な英雄である大アイアースによって討たれたとする異なる伝承も存在します。

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