アストライアー

アストライアー: 星乙女としての正義の女神

アストライアー（古希: Ἀστραία、Astraiā）は、ギリシア神話における重要な女神の一つであり、主に正義と秩序の象徴として知られています。彼女は、ゼウスとテミスの娘とされる一説もありますが、他には星空を司る神アストライオスと暁の女神エーオースの子供とも言われています。アストライアーの名前には「星のように輝く者」または「星乙女」という意味があります。彼女はホーラー（ホーライ）三女神の一柱であり、正義の化身であるディケー女神と同一視されることがあります。アストライアーは有翼の女性として描かれることもあり、その姿はどこか神秘的で美しいものとされています。

ローマ神話とアストライアー

アストライアーのラテン語名はアストラエア（Astraea）またはアストレアであり、ローマ神話では正義の女神ユースティティアと同一視されることがあります。ローマの神話体系において、彼女は人間社会の倫理や道徳を守る存在として重視されました。このような背景から、アストライアーは古代から中世にかけて広く信仰され、後世にも影響を与え続けました。

堕落した人類への失望

アストライアーは、地上における人間の堕落を目の当たりにし、その失望感から地上を去ったとされています。オウィディウスの『変身物語』によれば、彼女が地上にいた時代は、サートゥルヌスが支配する黄金時代で、人々は自然の恵みに満ちた生活を送り、法も必要としない平穏な生活を営んでいました。しかし、ユーピテルによるサートゥルヌスからの政権奪取により、世界は白銀時代に突入し、人々は農耕を始めざるを得なくなり、文明が進むにつれてお互いの争いや欲望が芽生えていきました。最終的に、鉄時代に至ると、悪が蔓延し、アストライアーは地上が血に染まった様子を見て、再び帰れなくなってしまったのです。

星と星座との関係

アストライアーは、血に染まった世界を見限り、天へと昇った結果、星座のひとつであるおとめ座（ヴィルゴ）として位置づけられるようになりました。また、彼女が持っていた正義を表す天秤は天秤座（リブラ）として知られています。これにより、アストライアーは多くの人々にとって倫理的な指導者や守護者としての象徴となりました。アストライアーはその後も信仰の対象となり、特に平和と公正の象徴として重視され続けています。

後世のフィクションと記憶

彼女の名前は小惑星アストラエアにも用いられ、天文学においてもその名が残されていることがわかります。また、ウィリアム・シェイクスピアの『タイタス・アンドロニカス』や、ラルフ・ワルド・エマーソンの詩『アストライアー』においてもアストライアーが言及されており、彼女の影響力は古代にとどまらず、文学や科学の世界にも広がっていったことが示されています。

アストライアーは、正義の象徴として今なお多くの人々に語り継がれ、彼女の存在は倫理観や社会的正義を考える上で重要な要素として残り続けています。

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